箱根にオー・ミラドーを開いて30年近く経つが、勝又登さんはいまだに「オーベルジュって何?」と聞かれることがあるという。そういう意味では「オーベルジュ」は今も「新しい」フレンチの楽しみ方と言えようか。勝又さん、服部幸應さん、中道博さんにその魅力を聞いた。
日本の上質な料理屋さんは、庭は広いけれど迎え入れるお客さまは1日に4〜5組。それで立派に世界にアピールできる。そういうものが僕らの望むオーベルジュです。オーベルジュは西洋料亭、とイメージしていただいてもいいと思います。金沢や京都をはじめ、日本各地で何代も続く不動の料理旅館、それは和のオーベルジュだと思います。食だけでなく、館そのものが手作りのオートクチュール。そういう場を提供するのが我々の仕事だと思っています。ですから、オーベルジュの主は、オーベルジュのプロとして、世界の料理界にアンテナを立てて、刺激を受け続けることが大事。いい意味で個性を発揮すれば、それに共鳴するゲストが訪ねてきてくれる。北海道に行けば北海道のオーベルジュがあり、そこの主はその地の食材や、吹く風の香り、四季を熟知している。その風に惹かれて、ゲストはそのオーベルジュに足を運んでくれる。
僕は30年前から、子どもが食べて元気になる、病気にならない健康的な食べ物を、調達することから自分が関わってやりたかった。調達した力強い食材を活かすために、研究する。大自然は非常に手強い相手であり、楽しくもある相手です。大自然のなかに場所を借りているんだという謙虚な気持ちで生きないと、簡単に自然に振り回されてしまう。小手先だけでは動かない。都会のエネルギーと自然のエネルギーを比べたら、自然のエネルギーの方が圧倒的に強いと感じます。ヘタをすると、この自然を捉えられない。相当真剣に取り組まないと、振り回されます。地方でオーベルジュに挑戦している我々の仲間は、そういう考えに共感してくれる仲間ばかりです。
オーベルジュのオーナーたちって、僕を含めて、ちょっと変わっている。いい意味でみんな個性的。その土地に立って見る景色が、自分を呼んでいるように感じて、そこに館を建て、都市とは全然違うストーリーの中で、オーベルジュをやっているんです。
1969年に渡欧。オランダ、パリ、ニースで修業をする。帰国後の73年、「ビストロ・ド・ラ・シテ」を東京・麻布に開業し、本格的なヌーベル・キュイジーヌを展
開。日本初のオーベルジュとして86年、「オーベルジュオー・ミラドー」を開く。日本オーベルジュ協会理事長。
私は、箱根のオー・ミラドーのオープニングの時に駆け付けたひとりです。札幌のモリエールに初めて行った時には、キャビアを添えたジャガイモをいただきました。これがたまらなくて、いまだに思い出す。勝又さんも中道さんも、まさに地産地消。オーベルジュのリーダーならではのフランス料理です。私はフランスに旅した時にも、いろいろなオーベルジュに泊まります。星を持っているシェフの、その土地ならではの料理を堪能した後、そのまま部屋に戻ってすぐに寝られる。それがオーベルジュの魅力だといつも実感します。
フランスでオーベルジュがどういう形で発展したのか調べてみました。アルザスには、今も小さな村イローゼンに三ツ星の「オーベルジュ・ド・リル」という素晴らしい旅籠がありますが、そのアルザスに、フランス革命直後にはすでに、現在のオーベルジュの原型があったようです。当時の旅は自動車ではなく馬車。だから馬小屋が併設されていた。オーベルジュは車のない時代から、長い歴史を紡いできているわけです。
今、食の世界では「0キロ運動」が進行中です。その土地で採れたものをその場で調理して食べればよい。ガソリンで大気を汚して食材を運ばなくても、そこで採れたものを、その季節に、その土地の旬で味わおう、ということです。その想いは、むしろ日本人が強く持っている感覚ですから、オーベルジュで食べて泊まる楽しみは、日本でも、これからますます求められると思います。
学校法人服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長。医学博士、健康大使。1945年生まれ、東京都出身。立教大学卒。昭和大学医学部博士課程学位取得。1977年に学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長に就任。現在に至る。
オーベルジュ オー・ミラドー
Auberge au Mirador
神奈川県足柄下郡箱根町元箱根159-15
☎0460-84-7229
レストラン
●11:40~14:00LO、17:30~21:00LO
●水休
●コース 昼4400円~、夜10000円~
●54席
ホテル
●チェックイン15:00、チェックアウト11:00
●ダ ブル プティ ルーム5000円~
ダブル・ツインルーム9000円~
(各1名様料金、朝食付き)
●夕食 1名様 10000円~
www.mirador.co.jp
CUISINE KINGDOM=取材、文
本記事は雑誌料理王国239号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は239号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。