フランス料理は地方にこそよく似合う「オーベルジュ オー・ミラドー」勝又 登さん


今年はもう一度ベーシックに。
日本初のオーベルジュが発信するフランス料理の形

オーベルジュオー・ミラドー 勝又登さん

「フランス館の親父は、今年はもう一度、ベーシックなフランス料理に立ち返ってみようと思っています」

フランス料理らしいフランス料理。お客様に、「今日はフランス料理を食べた」と、しみじみ感じてもらえるような料理をあえて志向していきたい、と「オーベルジュ・オーミラドー」のオーナー勝又登さんは語る。その言葉の奥には、情報化社会のなかで、うわべだけをすくいとったようなフランス料理へのアンチテーゼが潜む。

「本物が分かっていて遊びを加えるならいい。しかし、本物も知らずに、遊びだけを振りかざしては、薄っぺらなフランス料理になるだけです。それについては、厳しくモノ申したい。頑固親父であり続けたい」

しかし、翻って自分はどうだろう。ちなみに「オー・ミラドー」はフランス館なのに、いつの間にかイタリアやアフリカのワインがラインナップされている。

「イタリアやアフリカのワインが悪いわけではありませんが、料理人として、何かちょっと足元がブレてきてはいないか。それを今一度、自分自身のためにも正したい」

テラスサイドのダイニングは、ガラス張りで明るい日差しが差し込む華やかな空間。

フランス料理は地方にこそよく似合う

一方で勝又さんは、〝地方からの発信〞にこれまで以上に力を入れる。「フランス料理は、もともとその土地に根ざした料理。だからフランス料理は、本来、土地の食材が手に入りやすい地方にこそ、向いている」

勝又さんは30年近く箱根でオーベルジュを営んで、最近、改めてそのことを強く感じるという。

「地方がもっと文化を発信して、地方から元気になっていくことが重要」。その手段のひとつとして、「田舎発!ジャンルを越えた真の美食を味わう会」など、イベントも開催。「今日は祭りだからね」と軽口をたたきつつも、厨房に入れば瞬時に顔つきが変わる。メインのエゾシカはこの日のために、約1カ前から熟成庫で寝かせて食べ頃にした。「地方発」を標榜した以上、ヘタなものは供せない。

地方発――日本初のオーベルジュを手がけた先駆者がまた、動き始めた。

鹿背肉のゆっくりローストりんごのパウダー添え リガトーニとそのラグーと共に
レストランの熟成庫で約1カ月間熟成したエゾシカを使用。ゆっくりローストした鹿背肉はきちんと火が入っているにもかかわらず、ジューシーで優しい味わい。リンゴのパウダーの風味が、鹿背肉の味を引き立てる。

Noboru KATSUMATA
1946年、静岡出身。1963年に料理の世界に入り、1969年に渡欧。オランダ、パリ、ニースで修業をする。帰国後、1973年にパリの下町にあるような小粋な店「ビストロ・ド・ラ・シテ」を東京・西麻布に開業。ビストロブームを巻き起こす。1986年に芦ノ湖を望む高台に、「オーベルジュ オー・ミラドー」をオープンする。各界のアーティストとともに、箱根から新たな文化の発信を積極的に提案する。

山内章子=取材、文 星野泰孝、依田佳子=撮影

本記事は雑誌料理王国224号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は224号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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