日本は「パン」という言葉の意味するものが多様な国だ。「パン屋さん」のカタチもさまざまだが、いま注目したいのは、この国ならではのパンの在りようを考え、伝える人がいる店だ。
じつは2007年に、日本のパンを変えるかもしれない国産小麦が誕生した。超強力小麦「ゆめちから」だ。この小麦粉をブレンドすることで、タンパク値の低い日本の小麦がパンに使えるようになり、自給率向上も望める。その名の通りの小麦だ。
2013年にオープンした食パン専門店「セントル ザ・ベーカリー」は、「ゆめちからブレンド(北海道美瑛産)」を用いた、しっとりもちもちした食パンに人気が集まり、行列が絶えない。併設のカフェでは、窯から出したばかりの食パンで、料理人がオーソドックスなサンドイッチを作ってくれる。この店を運営する西川隆博さん(株式会社ル・スティル代表)は、10年余り前にフランスの銘柄小麦粉に焦点を絞った「VIRON」を成功させている。
販売されているパンは2斤サイズの食パンが3種類のみ。「角食パン」、北米産小麦の角型「プルマン」、山型の「イギリスパン」を販売する。
セントル ザ・ベーカリー
中央区銀座1-2-1 東京高速道路紺屋ビル1F
03-3562-1016
● 10:00~18:00(16:00LO、 パンの販売は18:00まで)
● パンは毎日営業
● 56席
商品を特化する店もあれば、多様な商品を扱う店もある。質の良い食材を育てる各地の生産者と繋がり、次々と店をプロデュースする食の職人、杉窪章匡さんの「365日」では、パンをメインに野菜も調味料も本も雑貨も販売している。仕事帰りに一杯、丁寧に淹れられたハンドドリップのコーヒーを、あるいはワインを楽しめるかと思えば、朝7時からはなんと焼魚にご飯の和定食も食べられる。その風景がパンと共にある。食のセレクトショップ、それともこだわりのコンビニ。杉窪さんの仕事は、安心してものづくりができる世の中を目指す。
パンに使う副素材を仕入れに頼るベーカリーが多いが、「365日」では、ハムやあんこ、ドライリンゴなど食材の加工も自ら行う。
365日
東京都渋谷区富ヶ谷1-6-12
03-6804-7357
● 9:00~19:00
● 不定休
● 6席
「ダンディゾン」の木村昌之さんは、顔の見える生産者にインスパイアされてパンを焼く。エコファーマーによる在来種のリンゴのパンをかじりながら、そう思う。
最近、ダンディゾンのパンは余計な飾り気をそぎ落としてよりシンプルになった。以前は洒落たパンを買いに寄ったものだったが、今は日々のパンを買いに行く。そのパンは身体にすっと馴染み、必要な分だけ栄養になるようだ。シンプルとはそういうことかもしれない。
ビタミンや鉄分を手軽に摂れる「ミューズリー」は、小麦、水、塩、酵母の生地にディンケル押麦、フルーツとナッツがぎっしり。
ダンディゾン
東京都武蔵野市吉祥寺本町2-28-2 B1F
0422-23-2595
● 10:00~18:00
● 火、水休
https://dansdixans.net/
顔を思い浮かべることは、ものづくりにおいて大切なことだ。昨年末オープンした「ブーランジェリー・レカン」の割田健一さんの創作のモチベーションは、常に相手を喜ばせたいというところにある。そのパンは、フレンチのベースに国産小麦やドーナツ、マフィンといったアメリカンなトレンドを加味して、新しさに満ちている。界隈のレストランへの卸売りも含め、そのパンの向こうには、必ず料理人やお客さんの顔が意識されているのだ。
ブーランジェリー・レカンは、銀座レカングループが発信するパン専門ブランド。 食材にこだわり、毎日の食卓を彩る、さまざまなパンを販売する。
ブーランジェリー・レカン
東京都中央区銀座5-11-1 1F
03-5565-0780
● 10:30~21:00 (最終焼き上がり20:00)
● 無休
http://www.lecringinza.co.jp/boulangerie/
ブレッドジャーナリスト 清水美穂子さん
Mihoko Shimizu
情報サイトAll AboutやBread Journal、雑誌などのメディアで、おいしいパンとその向こう側にスポットをあて続ける。パンを楽しむ企画のコーディネート、執筆多数。著書に『日々のパン手帖』(メディアファクトリー)他
本記事は雑誌料理王国第247号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第247号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。