「外国人に伝えたいこのひと皿「かどわき」トリュフご飯


このひと皿で伝えたい

日本のおいしい水で炊く、土鍋ご飯の味

かどわき 門脇俊哉さん

トリュフご飯
Black truffle infused rice

異国の食材が日本料理に使われ、これほどまでにそのおいしさを発揮することがあるのだろうか?そんな驚きを与えてくれるのが、写真の「トリュフご飯」。「かどわき」の締めの人気メニューであり、夏はイタリアのサマートリュフ、秋はフランスの黒トリュフが使われる。かのジョエル・ロブションも舌を巻いたという、豪快かつ贅沢な土鍋ご飯だ。

「オープン当初から『フグの白子と白トリュフのお粥』を作っていて、トリュフには注目していました。ただし和風リゾットのような感じで受け止められるのは悔しかった。そこで、トリュフを本当の和のかたちで伝えたいと思ったのです」

おいしさの秘密は、素材選びや仕込みにある。米は懇意にしている栃木の農家から、3日おきに精米したてのコシヒカリを送ってもらう。それをホールのトリュフと一緒に米びつに入れ、冷蔵庫で3日間ねかせて米に香りを移すという。水はオープン当初から使っている、日光山麓の天然水を使って炊く。

「日本料理と海外の料理の大きな違いは、水にあると思います。海外で納得できるおいしい日本料理に出会えないのは、水の質に差があるからではないでしょうか。ご飯も水が命です」

米を炊く時の調味料は、酒少量とうま味を与える塩を入れるだけ。土鍋は調理場の焼き台と同じく、信楽・雲井窯の中川一辺陶のもの。厚造りで、強火にも耐え、熱の伝わりが早い。最初は強火で炊くが、ふつふつしてきたら、すぐに弱火にして7、8分、蒸らして10分ほどで炊き上がる。鍋の蓋を開けると、ふわぁーっと店中にトリュフの香りがたちこめる。

炊き上がりに、魔法のエッセンスをぽとり

「本当は教えたくはないのですが」と門脇俊哉さんがこっそり種明かしをしてくれた。炊き上がりに、生の胡麻を絞った太白胡麻油を落としてかき混ぜるのだ。こうすることで米にじんわりと油がしみる。最後に杉桶仕込みのまろやかな濃口醤油を入れるのだが、ご飯が油でコーティングされているので、表面だけに醤油がのって上品な風味が漂う。醤油を入れて炊く、家庭の炊き込みご飯とはまったく異なる〝料理屋のご飯〞ができあがるのだ。

盛り付け直前に土鍋にトリュフを削って仕上げると、魅惑的な香りが倍増。鍋底のおこげもご馳走だ。茶碗に盛って、小さくちぎった焼き海苔を添えるのも、トリュフを和の素材と合わせたいという門脇さんのアイデア。森の香りと潮の香りは不思議と合う。まるでトリュフの魔法にかけられたように、外国人シェフもびっくりのニッポンの味となる。

世界に誇れる日本料理の心 すり鉢
「その昔〝料理人仕事は、裏漉し仕事とあたり鉢仕事〞と言われたように、日本料理は手間を惜しんではいいものは生まれません。すり身もすり鉢を使うと、機械では出せない独特の粘りが出ます」と門脇さん。手仕事の技が要求される、日本料理には欠かせない道具だ。

Toshiya Kadowaki
1960年札幌市出身。築地「植むら」「鴨川」を経て、上野「海燕亭」で料理長を務める。00年独立し、麻布十番に「かどわき」開店。今年1月、近隣に移転オープン。

text by Kanami Okimura/photographs by Fujio Takashima

本記事は雑誌料理王国2006年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2006年11月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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