馬肉を使った絶品トマト煮込み「ブランチョーレ ディ カヴァロ」


「微調整」「化粧」の意識が伝統を未来へつなぐカギ

【インカント】小池教之さん

 伝統を重んじる小池さんは、忘れられつつある料理に対しても敬意を払い、自分流の解釈を押し付けたりはしない。だが、新しい発想をまったく取り入れないわけではない。それをシェフ流に言えば、「微調整」とか「化粧」という言葉になる。「化粧は土台となる肌がしっかりとしていないとのりませんね。だから、長年守られてきた土台を鍛えます」。ただし、現代人の口に合わない部分や、「らしさ」を強調するために、多少の手を加えることはあるのだ。

 たとえば、プーリア州の郷土料理として作り方を公開してくれた「ブラチョーレ」は、馬肉をトマトソースで煮込む料理だが、昔ながらの調理法のまま煮込むと、馬肉の脂が抜けてパサパサになってしまう。現地では、今でもその調理法を貫いているのだが、少し手順を変えるだけで、見た目には変わらないが、ワンランク上の「ブラチョーレ」ができると考えた。

 ポイントは、馬肉と煮込みのソースを別々に仕上げる点にある。馬肉は煮込まずにじっくりローストしてジューシーに仕上げ、これに、馬肉をそうじした際に出る端肉や、脂部分をトマトソースで煮込こんだものを合わせるのだ。すると、ソースには馬肉の旨味がしっかりと移っているが、メインの馬肉はやわらかいままの「ブラチョーレ」になる。

 郷土の味を尊重したいとの思いから、「伝統」と「旨さ」の狭間で揺れ動くこともあるが、未来につなぐためには、「伝統は常に磨きこんでいかないと」と言う。これもひとつの「進化」といえるだろう。

ブラチョーレディ カヴァッロ

馬肉をトマトソースで煮込み、パスタと合わせる料理。ひと皿の中にプリモピアット(パスタ、リゾットやスープなど)とセコンドピアット (メイン料理)を一緒に盛るピアットウニコで。

馬肉は低温調理の要領で表面を強火で焼いて休ませる

①薄く切り開き叩き伸ばした肉でチーズなどを巻く
肉にラップをのせ、その上から叩いて伸ばしたら、棒状に切ったカチョカバロ、パセリを置き、塩、トウガラシ、ペコリーノチーズをふって巻き込む。巻いた肉は、タコ糸で縛って形を整える。

②表面を強火で焼いた後ホイルに包む
関節熱を利用して肉の中まで火を通し、しっとりとした仕上がりをめざす。そのため火からおろしたらホイルに包み、温かい場所で休ませる。火が通ったらタコ糸を外す。

③トマトソースを馬肉にからませる
馬肉の端肉などを入れて煮込んだトマトソースで肉を加熱。火を入れすぎないように注意。

④手打ちパスタをソースで和える
肉を取り出し、ゆでたパスタをソースにからめる。適当な大きさに馬肉を切り、パスタと盛り付ける。

小池シェフのポイント
サシの入っているハラミを使ってよりジューシーに仕上げました
イタリアではふつうサシの入っていない部位を使いますが、サシが入っている馬肉だとやわらかな食感に仕上がります。馬肉は熊本産や会津産を使用。馬肉の代わりに牛肉を使うこともあります。

Noriyuki Koike
1972年、埼玉県生まれ。麻布十番「ラ・コメータ」や恵比寿「パルテリペ」など、都内のレストランを経て、2003年に渡伊。ピエモンテ、シチリア、カンパーニャなど、計7軒で修業を積む。07年、「インカント」のシェフに就任。

インカント
incanto
東京都港区南麻布4-12-2 ピュアーレ広尾2F
03-3473-0567
18:00~22:00LO(土、祝21:30LO) 22:00~24:00LO(オステリアタイム 土、祝21:30~23:00LO)
● 日、第1月休
● 26席
http://incanto.jp


上村久留美=取材、文 星野泰孝=撮影

本記事は雑誌料理王国第225号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第225号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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