日本の未来の中国料理を作り出すのは、今まさに飛躍の時を迎える、才気あふれる中国料理人たち。長い歴史と伝統が培った中国料理の更なる発展を、注目の人物を通して探る。
21種の野菜(ピーマン2種、ツルムラサキ、オクラ、空芯菜、赤カラシ菜、シシトウ、ズッキーニ3種、トマト2種、ニンジン2種、ナス3種、ジャガイモ、キュウリ、ロメインレタス、大根)を自家製の無農薬玄米麹で炒めた。ほのかに甘い麹の旨味が野菜の味を引き立てる。
炒める直前、野菜の入った大きな箱3つを開けると、白ナス、赤カラシ菜、黄色いレモントマト、緑の濃い葉付きのピーマンなど、色も形も大小さまざまなみずみずしい野菜たちが顔を出した。まるでおもちゃ箱のよう。「埼玉と静岡の有機・無農薬野菜生産者5軒と契約して、前日の午後に収穫したものを朝届けてもらっています」と、店主の黒澤篤也さん。どんなに忙しくても、野菜は炒める直前にカットする。「切ったそばから、味も風味もどんどん逃げます。ちぎれるものはちぎって。包丁もできるだけ入れたくないんです」
黒澤さんは、中国料理と同じくらいイタリアンの経験も豊富。人気を博したレストランのシェフも数年経験している。「イタリアンっておもしろいと思いつつ、厨房で賄いを作るとなると俄然中国料理派。中国料理の本まで買って熱心で。ひかれていたんですね」。
では、イタリアンと中国料理の最大の違いは?「素材とソースの関係。素材に合うソースを探すのがイタリアン、中華はソースが万能でどんな素材とも合わせる。でも、この素材とソースが本当に合うのかと考えて、作らなくなった料理もあります。僕の料理の最大の目的は、素材を生かすことなんです」。
●1969年東京都生まれ。調理師学校卒業後、三笠会館に入社、イタリアンレストラン「ブォーノブォーノ」で修業を始める。3年半後、名古屋の系列店に移り渡伊し半年間修業。帰国後は系列の上海料理店、さらに横須賀の北京・上海料理店「煌蘭」で7年半修業。再びイタリアンに戻り、神宮前「ラ・グロッタ」で2年シェフを務める。蒲田「聖兆」で5年間料理長をし、2011年5月独立開店。
Kurosawa
東京都大田区山王2-36-10
☎03-3263-9371
●11:30~13:30LO、
18:00~22:00LO
●月休
●昼 コース1000円~/夜 コー
ス4500円~、アラカルトあり
セロリやニンジン、ネギ、生のトウガラシなどでとったスープをベースに、練りゴマ、ワサビ、オイスターソース、ショウガ等を練り合わせたものを加えて沸かす。下味をつけた鯛の切り身、板春雨を加え煮て熱した土鍋に移し、山椒油を加え生の中国山椒を添えた。
熱々の石鍋の中でグツグツと煮立つスープからは、山椒の鮮烈な香りが立ち上る。スープの複雑な旨味のあとには、喉元までジンジン痺れる独特の爽やかな辛さがやってくる。「1年前、四川省に1週間滞在した時、街で流行っていた料理です。四川ではたっぷりの川魚でしたが、白身魚に。麺もうどんのような太い麺を煮込んでいましたが、板春雨に変更。辛さを抑え、より日本人好みにアレンジしましたと、調理部長の陳建太郎さん。
料理修業を始めて3年半後、四川に留学。「幸運にも四川料理の基礎を本場で学べました。日本の3倍近くでかい鍋、2倍はある火力で最初はスケールに圧倒されました。言葉は厨房スタッフと喧嘩やマージャンなどしながら覚え、大切な友人もできた。今後の料理人生に欠かせない、濃い2年半でした」
「四川飯店」は、祖父の陳建民さん、父の陳建一さんらが育てた店で長年のファンも多い。「僕が生まれる前からある麻婆豆腐など、守るべき伝統は大切にしたい。僕にできることは、これからのお客さまが求める味を考えて四川料理を作ること。厨房の料理人やホールスタッフと情報を共有しながら、真摯に考えていきます」。
1979年東京都生まれ。玉川大学在学中に父の仕事に強い興味を持ち、大学を中退し「四川飯店」に入社する。渋谷「szechwan restaurant陳」で修業を始め3年半後、四川大学に留学。同時に四川省成都の「菜根香」で2年半修業。総料理長の曾国華氏に師事し、本場の四川料理を学ぶ。帰国後は「四川飯店 日本橋店」を経て11年8月「赤坂 四川飯店」調理部長に就任。
Shisen Hanten
東京都千代田区平河町2-5-5
全国旅館会館5F、6F
☎03-3263-9371
●11:30~14:00LO、
17:00~21:00LO
●無休
●昼 セット1260円~/夜 コース
6300円~、アラカルトあり
●www.sisen.jp
ネギは辛さを感じさせないよう、水にさらすのではなく切って2時間ねかせる。キュウリは繊維に対して斜めに切り、口当たりをやわらかく。ザーサイは針のように細く切り、口に入れた時、3つが同じぐらいの存在感に。空気を含ませながらふんわりと和え、ゴマ油で香り付け。
「なんてことない一品ですよね、和え物って。でも、素材の切り方、和え方などを考えて丁寧に作ると、『なんか違う』って驚かれる。こういう、食材そのものの味を楽しめる料理が好きです」と、店主の山下昌考さん。夏は旬のトウモロコシの芯を蒸してスープに使ったり、カボチャを1カ月間天日に干して甘味を引き出したり。神奈川県三浦半島にある安田養鶏場の野菜が好きで、車を走らせ買いに行くことも。「料理は素材選びと下ごしらえが肝心。僕が尊敬する岐阜の中国料理店「開化亭」でお世話になった古田等さんにも、『いつも万全の準備をして、すぐに走れる(料理できる)ようにしておけ』と言われました」。
有名料理店などで修業をしていたが、25歳のとき、生死の境をさまよう大病を患った。「歩行のリハビリ中に、実家で母の料理を食べて感じたんです。『おいしい料理は食べて疲れないし、素材の味がする』と」。その頃、以前から修業を熱望していた「開化亭」から声が掛かった。「食材を生かした料理もそうですが、一番魅かれたのは師匠の古田さんの人柄です。ザーサイを作るのも、魚をおろすのも、何でも全力でやる方なんです。僕も自分の料理を全力で作っていきたい」。
1979 年東京都生まれ。調理師学校卒業後、銀座「福臨門酒家」に入店。6年後西麻布「epicer」へ移り四川料理を学ぶ。ある日雑誌で岐阜「開化亭」の記事を目にし、師匠と料理に魅かれ弟子入りを決意。その後毎月1度は店に通い、5年後に修業が実現。約2年半いた最後の1カ月は、師匠から留守の間の厨房を任された。2009年、目黒に「チャイニーズレストラン わさ」を独立開店。
Wasa
東京都目黒区八雲3-6-22
☎080-3027-4937
●12:00~13:30LO(土日祝)
18:00~22:30LO
●水、第1・3木休
●昼 1000円~/夜 前菜、点心
630円~、1品料理1890円~、麺
1050円~
●wasa.main.jp
馬田草織・文/構成 天方晴子、岡本 寿、長瀬ゆかり・写真
本記事は雑誌料理王国206号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は206号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。