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【レシピ付き】陳健一さんのスペシャリティエ 張大千鶏

四川飯店

僕が守り続けてきたもの。それは陳建民の魂

 父・陳建民の後を継いで料理人になりたい。幼いときからそう思っていました。調理場に立つ親父の姿は、とても楽しそうで格好が良かったんです。父が、東京・田村町(現在の西新橋)に最初の四川飯店を出したのは1958年のこと。僕はまだ2歳ですから、当時のことは覚えていませんが、ここ赤坂四川飯店をオープンしたのは、僕が中学生の頃でした。多くの後継者を育て、四川料理を日本に広めた父の背中を見て育った僕には、「麻婆豆腐」、「海老のチリソース」、「担担麺」など父から受け継いだスペシャリテがあります。

 でも、あえて、「張大千鶏」を選びました。これは赤坂四川飯店の裏メニューで、お祝い事などの席にお出しします。この若鶏のから揚げをピリ辛ソースで炒め合わせた一皿があると、テーブルが一段と華やぎますね。四川ならではの「五味(ウーウェイ)」の饗宴を味わっていただきたい。料理名は、”アジアのピカソ”と称される四川省出身の著名な画家「張大千」に因んだもの。食通だった大千がこよなく愛した料理で、この料理を作るとき、父は必ず「張大千先生に捧げる」と言っていましたね。僕も同じ気持ちで作っています。

 おいしい料理をつくるのには、もちろん技術が重要。でも、それに匹敵するほど大切なのは調味料。四川料理に欠かせない豆板醤は、四川省で陳家のためにだけ特別に作ってもらっています。僕が27歳のときに四川省に行って、この約束を交わしてきました。それまでは、日本と中国との交易がスムーズに行ってなかったため、豆板醤は父が自分で作っていました。この「張大千鶏」には、四川省の〝陳家の壷〞で作られた3年ものの豆板醤と1年ものを合わせて使っています。もちろん、山椒や唐辛子も四川省のもの。

 じつは、調味料や食材を変えないことが大事。豆腐もずっと同じ店のものを使っています。僕と同じように、豆腐屋の頑固親父も現在2代目。僕と息子の建太郎が、いっしょに働いているように、あちらも3代目へと続いてくれればありがたい、と思っています。こうした生産者の方との長いお付き会いがあってこそ、父の代から愛されてきた赤坂四川飯店の味が守れる、と思っています。

陳 建一
Kenichi Chin
1956年生まれ。東京都出身。父は日本に四川料理を伝えた陳建民さん。玉川学園大学卒業後、赤坂四川飯店で修業をはじめる。 1990年、父の後を継ぎ、四川飯店グループの社長に就任。37歳から6年間、テレビ番組「料理の鉄人」に中華の鉄人として出演。 2008年、「現代の名工」受賞。長男・陳建太郎さんは、四川飯店3代目として活躍中。

 とはいえ正直にいえば、料理は一代限り。人間が違うから舌も違う。まったく同じ味は出せるわけがない。初代の陳建民の味は、僕には出せない。30歳頃、それで悩みましたが、「お父さんの真似ではなくて、自分の料理のファンを作ればいいじゃないの」と言ってくれたのが妻。このひと言で救われました。

現在、四川飯店は店舗を数えます。店が増えて弟子が増え、その弟子たち自身にもそれぞれの感性がある以上、僕はその感性を殺すわけにはいかない。それぞれの弟子たちの感性は尊重して各店のことは任せています。それぞれがファンを増やしてほしい。そのためにも「これは四川飯店の味だ」というレベルは、絶対に保たなければならない。

 そして、僕が守り伝えてきた陳建民の魂だけは、すべての店に宿してほしい。「料理は愛情」。父の口ぐせが、僕の胸には深く刻まれている。もちろん、この「張大千鶏」にも。

【レシピ】張大千鶏

張大千鶏
張大千鶏
亡き父・陳建民から受け継いだ豪華なひと皿。麻(マー・しびれる辛味)、辣(ラー・唐辛子の辛味)、甜(テン・甘味)、鹹(シェン、塩辛さ)、酸(スァン・酸味)。そして香味。四川の豊潤な味わいが中華料理の醍醐味へ誘う。

材料(2人前)

鶏モモ肉・・・1枚(300g)/セロリ・・・小1本/生シイタケ・・・2個/ピーマン、赤ピーマン ・・・各1/2個/ネギ・・・約10㎝/ショウガ・・・小1カケ/四川トウガラシ・・・5g/サンショウ・・・10粒/ラー油・・・大さじ2 /豆板醤・・・大さじ1/スープ・・・1/2カップ/砂糖・・・小さじ1/醤油・・・大さじ1/老酒・・・大さじ1/コショウ・・・少々/水溶き片栗粉・・・適量

下味
塩・・・小さじ1/4 /老酒・・・大さじ1 /醤油・・・小さじ1/コショウ・・・少々/全卵・・・1/2個/片栗粉・・・大さじ4 ~5

作り方

1.ひと口大に切った鶏肉をボールに入れ、 下味をつける。
2.セロリ、シイタケ、ピーマン、赤ピーマンは、鶏肉の大きさに合わせて花切りにする。
3.ネギは1㎝幅のぶつ切り、ショウガは1㎝角の薄切りにする。
4.鶏肉をから揚げにし、2の野菜も油通しする。
5.鍋に四川トウガラシ、サンショウ、ネギ、ショウガを加え、ラー油で炒めて香りを出したら、さらに豆板醤を入れて炒める。
6.5にスープを入れ、砂糖、醤油、老酒、コショウで味を調えたら、鶏肉、野菜を戻し、水溶き片栗粉でタレをからめて仕上げる。

四川飯店

赤坂 四川飯店
東京都千代田区平河町2-5-5 全国旅行会館5、6階
● 11:30~14:00LO、17:00~21:00LO
● 無休
● ランチセット1260円~、コースメニュー6300円~
● 300席
http://www.sisen.jp


本記事は雑誌料理王国第225号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第225号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

長瀬広子=取材、文  依田佳子=撮影
Text by Hiroko Nagase photos by Yoshiko Yoda


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