幸福度が高い一体感を生み出すペアリング「クラフタル」


テーマを軸に、食材をつなぐ、唯一無二のパンペアリング

クラフタル

2015年9月に中目黒にオープンした「クラフタル」。繊細でドラマチックな色使いの中にも、どこかノスタルジックな情景に充ちた料理、そして、型にはまらないユニークなパンを組み合わせるパンペアリングで、唯一無二の世界へ引き込むと話題を呼んでいる。

正統派レストランや本場フランスで修業を積んだ大土橋真也さんが紡ぎ出すのは、突き刺さるようなかっこよさや前衛的な料理ではなく、おとぎ話や物語のように、優しさやユーモアを感じるひと皿だ。

「クラフタル」で提供される料理はすべて、景色、カラー、普遍的なものの3点にテーマの根幹がある。それは単に、食材をすべて同じ色や産地に揃えるということも含むが、それだけではなく、懐かしい景色や幼い頃に読んだ絵本、日本の文化・歴史、匂い、温度といった視点から、多くの人が持ち合わせる共通認識を意識している。

たとえば、冬のひと皿を考える時、旬の冬野菜には白色のものが多いことから、白をテーマに食材の組み合わせを考え、皿上に誰もが心に思い描く冬景色を描き出すといった具合だ。

「どの世代も懐かしさを感じる風景はある程度同じだと思うんです」

一見“心のつながり”だけに訴えかけるビジュアル先行型のパンペアリングかと思うが、そうではない。

当然ではあるが、まずはパンも料理もそれぞれの独立したおいしさを追求することに重きを置いている。そのうえで、単体で完成されているものを、集合体として口に入れた時に、一体感と相乗効果の両方を生み出す。ひとつひとつは確実に違う味で構成されているのに、全体的な印象では、あらかじめ同じ空気をまとっていたような感覚に陥らせる。ひと皿に緻密で複雑な計算が施され、すべてが互いに不可欠な存在となっている。「料理は、これを食べてくださいという圧倒的な押し付けに近いもの。だからこそ、細部に至るまで抜かりなく支配する。“代わりのきかない料理”を楽しんでいただきたいですからね」

なぜ“パン”ペアリングだったのか。

店名の「クラフタル」は、技術の“CRAFT”と物語を意味する“TALE”を組み合わせた造語。新しく店を始めるにあたり、細部まですべて自分たちの手や技術で作ったもので構成したいという思いがあった。では、今までいたレストランで、自分たちの力が加わっていないものは何か。すぐに思いついたのはワインだったが、作るにはあまりに時間を要する。次に思い至ったのがパンだった。フランス料理には必ずパンが添えられるが、料理の内容にかかわらずバゲット一辺倒ということが多い。逆に言えば、代わりがきく存在ということだ。

これまでのパンに代わる料理を提供することで、レストランとしてひとつのスタイルを作りたい。日本発祥とも言える菓子パンや調理パンを、オリジナルの構成の中に取り込めないか。これなら異国のものを独自に発展させるという、日本が誇る食文化を外国人客にも発信できると思った。

「今まで培ってきたものを活かしてできる既存にない新しいもので、かつ自分がリスクを背負えるもの。それが、パンペアリングでした」

日々リスクを実感している。パンをコースでひと皿ひと皿変えて出すということは、予想以上にバランスが難しいという。食べさせ過ぎても、足りなくてもいけない。もう一個食べたいと言われるのは嬉しいが、ボリュームやビジュアル、コスト面で考えるとどうか。

「うちの料理は、ロジックのようにすべてがつながっているから、ひとつがつまづくと全部が覆ってしまう」

それはリスクでもあるが、大きなチャレンジでもある。全部がピタリとハマったときの相乗効果や、共通の価値観が生まれたときの幸福度の高さは計り知れないという。

「今は、まだひとつひとつ積み重ねている途中。百点満点はなかなか出ませんが、変化も楽しんでいきたい」

まるで冒険に挑むような眼差しに、未知なる進化への期待が高まる。

鳩のロゼ色が煌めく赤の濃密カラーグラデーション

【ペアリングの軸】

イメージ
黒から赤へのグラデーション
メイン食材
鳩、チョコレート

フランス産鳩のロースト
×
アメリカンドッグ
×
マス・ブラン バニュルスルージュ

ロゼ色に仕上げた鳩胸肉のローストをメインに、赤の濃密グラデーションを描写。鮮やかな赤は山梨県産山ブドウのソース。マデラ酒とチョコレートで仕上げたブーダンノワールは赤黒く、紫イモで華やかな紫色を添える。竹炭で色付けた墨黒色のパンは、ミンチ状にした鳩のコンフィを包み揚げ、串代わりに鳩の足骨を刺してアメリカンドッグに。レーズンのような甘さのワインが鳩とチョコにマッチする。

藁に見立てた白美人ねぎが郷愁を誘う冬支度の里山風景をアレンジ

【ペアリングの軸】

イメージ
日本の晩秋風景
メイン食材
そば、里山食材

韃靼そば香る仔羊のロースト
×
ガレット・サラザン
×
サンタ・デュック ジゴンダス

藁に見立てた白美人ネギが郷愁を誘う、冬支度の里山風景を描く。香ばしい韃靼そばをまとったNZ産仔羊の背肉ローストは、土を思わせるオリーブソースにユリ根とラクレットチーズのソースで。日本の秋に欠かせないそばは、そば粉のニョッキとトリュフで表現。キノコと菊イモの素揚げを包むそば粉のクレープは、藁俵を彷彿させる。そばの香りに負けない力強い赤ワインを合わせて。

緑の水玉でトータルコーディネートキャベツづくしな冬の日

【ペアリングの軸】

イメージ
緑のグラデ―ションと丸
メイン食材
キャベツ

タラと白子のグラタン
×
キャベツのシュークリーム
×
アルベール グリヴォ

冬の食材であるキャベツを使い、丸をテーマに緑でまとめた。ちりめんキャベツで巻いたグラタンは、中にタラと白子、酢漬けキ ャベツの刻みを重ねる。ハーブソースとグリーンマスタードが質感の違う緑を添え、芽キャベツが愛らしく並ぶ。キャベツピュレを加えたシュー生地には、タラとジャガイモのブランダードが入る。ナッティで酸がきれいな白ワインが全体をまとめ上げる。

雪が降り積もる白銀の世界めくるめくダイコンストーリー

【ペアリングの軸】

イメージ
雪景色の白
メイン食材
ダイコン

黒大根と氷見産ブリ
×
甘酒の蒸しパン
×
マヒ ソービニョンブラン

白銀の世界を描き出す、ダイコンづくしのひと皿。儚い雪のようなダイコンとユズのピュレムースをのせたメインは、冬の味覚・ブリダイコンをオマージュ。ブリの刺身にマリネした黒ダイコンスライスを合わせる。タプナードを添えた雪の大地から、カイワレダイコンが芽吹く。甘酒で蒸したパン生地にもダイコンを使い、ムクロジダイコンの葉で雪うさぎに。柑橘感と厚みのあるワインで、ブリの脂に負けない満足感を。

シェフ 大土橋真也さん
1984年鹿児島県生まれ。高校卒業後、大阪の辻調理師専門学校へ入学、その後同校のフランス校へ進学した。帰国後、「ザ・ジョージアンクラブ」「ジョエル・ロブション」を経て、再び渡仏。パリのネオビストロ「サチュルヌ」に入店。2013年に帰国し、「アニス」でオープニングから従事したのち、2015年9月に「クラフタル」のシェフに就任した。

君島有紀=取材、文 土岐節子=撮影

本記事は雑誌料理王国270号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は270号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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