【成功する店づくり】「何がしたいか」よりも「何が求められているか」佐藤幸二さん(クリスチアノ )


手頃な価格で楽しめて「この街」が求める店づくり

代々木八幡 クリスチアノ 佐藤幸二さん

「自分にしかできない料理、俺の店。そんな風にはしたくなかった」

東京・代々木八幡駅近くにあるポルトガル料理専門店「クリスチアノ」店主、佐藤幸二さんは、こう話す。その経歴は実に多彩だ。美術が好きで20歳の時にイタリアへ渡り、食べていくために、と始めた料理の仕事での縁もあり、その後フランス、イギリスへ。仏教にも興味を持ちタイにも渡った。約7年間の海外生活を経て、日本に帰国。料理の仕事の傍ら、グラフィックデザインやレストランのコンサルティングも手掛ける。「正直、『こういう料理をやりたい』というものはなかったんです。よく『自分はこういう店を開きたい』と言って突き進むけれど、それで成功しているのはごく一部。そこを目標にしちゃいけないと思うんです」

店内のいたるところに、佐藤さんが現地で買ってきた装飾品が飾られている。入り口のすぐ右手には、地元のイベント案内や、ポルトガルの鍋カタプラーナが置かれていたり。

「何がしたいか」よりも「何が求められているか」


店を代々木八幡に開くと決めた時、一番に考えたのは「この街に何が求められているか」だった。「ここには居酒屋みたいに手頃な価格で、飲んで食べられる店が少ない。でもただの呑み屋では面白くないでしょう」
それなら、この街にはないポルトガル料理の店を、手頃な価格で開けば、地元の人にも受け入れてもらえるのではないか、と考えたのだ。

バカリャウ・ア・ブラス
バカリャウとはタラの塩漬けを乾燥させたもの。それを、細く揚げたジャガイモ、タマネギとともに卵でとじる、定番のポルトガル料理だ。クリスチアノではこのバカリャウを自家熟成。少しクセのある香りが食欲を刺激する。

予想は的中した。開店前に店先に置いたチラシはあっという間になくなった。もちろん開店から5年目の現在も、連日満席の繁盛店である。

同じ地に2013年、ポルトガル菓子の店「ナタ・デ・クリスチアノ」を、2014年にポルトガルの魚料理の店「マル・デ・クリスチアノ」もオープンした。どちらもすでに代々木八幡の人気店のひとつだ。

おすすめのポルトガルワイン3本。左から、キンタ・ド・ロケス2013(ダン地方)、ヴィーニョヴェルデ2013(ミーニョ地方)、ドウロエヴェル赤2012(ドウロ地方)。

「本当にダメだと思ったら止まる。でも、ギリギリまで粘ります。ひとつのビジョンのために、あらゆる方法からアプローチする柔軟性が大事。今年もいろいろ考えていますよ」
佐藤さんは朗らかに笑った。

ゆったりとした空間づくり
飲食用のテナントでなかったため、電気を引くためにはキッチンの高さを上げなければならなかった。床を上げた分、天井が低くなるが、テラスとの境を開放的にし、所々に装飾をぶら下げることで圧迫感を解消。
Koji Sato
1974年埼玉県生まれ。全日空ホテルで勤務後、20歳の時に美術が好きでイタリアへ渡る。イタリア、フランス、イギリス、タイで料理の仕事をしながら海外で暮らした。帰国後、渋谷AROSSAに勤務。 2010年クリスチアノを開店した。

クリスチアノ
Crisitiano’s
東京都渋谷区富ヶ谷1-51-10
03-5790-0909
● 18:00~26:00(24:00LO) 日・祝のみ~24:00(23:00LO)
● 月休
● 38席(テーブル席25席、カウンター8席、 テラス席5席)
www.cristianos.jp




CUISINE KINGDOM=取材・文 中西一朗=撮影

本記事は雑誌料理王国第247号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第247号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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