2006年のつくばエクスプレス開業以来、沿線に新しく居を構えるファミリーが確実に増えている。また、つくば学園都市として国の研究機関を多く抱えるつくば市は、海外赴任経験のある研究者や大学関係者が多い。海外ですっかりパン食に馴染んだ人々は、食事用のシンプルなパンを求める。06年より、つくば市では産官学共同で「パンの街つくば」と称するプロジェクトを開始した。茨城県産のパン専用小麦も開発し、パンが経済振興にもひと役買っている。
「ダヴィッドパン」も、つくば市の新興住宅地にある。地中海に浮かぶコルシカ島で生まれたダヴィッド・マッテイさんは、半農半漁、豊かな自然と食材に恵まれて高校時代まで育つ。その後、ミュージシャンをめざしてパリへ上京して奥さんの裕穂さんと出会った。美食家でもあったダヴィッドさんは、製パン、ヴィエノワズリーの国家資格を取得するとパン職人に方向転換。裕穂さんいわく「あっさりしている性格で」。パリの「メゾン・カイザー」や「ブーランジェピシエ(be)」などで3年半ほど働いたのち、日本でブーランジュリーをやろうと「あっさり」フランスを後にする。07年の春、裕穂さんの実家近くで「ダヴィッドパン」をオ ープン。2階は住居だ。
ダヴィッドさんの起床は午前0時。パンの仕込みも焼成もすべてひとりで行う。カイザー時代、分業作業も経験したが、自分の求めるパンにならず不満が残った。
写真の料理は、北海道産の通称「磯ツブ」と呼ばれる巻き貝、エゾバイを使用。殻は叩き割り、中身を取り出して、身と肝に分ける。身は片栗粉を使って丁寧にぬめりや汚れを取り、下処理も念入りに。火を入れすぎると硬くなるのでニンニクと一緒に軽く炒めるが、トウガラシの代わりに葉ワサビを入れてマイルドな辛味を加えた。一方、ソースとなる肝は、ニンニクの香りやアンチョビの塩気と一緒に、ほどよく火を入れて臭みを取る。
馬場さんは、海水をたっぷりと含んだアサリなどの二枚貝は、貝のだしが必要なリゾットやパスタに用い、今回の磯ツブのような巻き貝は、ソテーにしたり、白ワインと一緒に煮るなど、調理法も分けている。「貝は海中のプランクトンなどを食べて生きていて、海の水をきれいにしてくれますよね。サルデーニャで働いていた時、こうした自然界のありがたさを肌で感じました」と話す馬場さん。自然の恵みをリスペクトする心が、料理にも注がれている。
フランス式朝食
「ダヴィッドパン」自信作のクロワッサン、ショコラブランとカプチーノ。店併設のカフェスペースでも食べられる。
つくば市で、パン用小麦として開発されたユメシホウ、地元の有機野菜のほか、海外の食材も極力オーガニックを使う。全てのパンに自家製天然酵母を使用。
オーブンはフランスのパヴァイエ社製。構造や設定はシンプルだ。「ポリエチレンはパンにも、環境にもよくない」ので包装は紙袋で統一。紙袋持参の客には袋代10円が割引となる。
餡やクリームを包むのは日本独特の発想。ダヴィッドさんの感性で“包む”パンもユニーク。日本では何でも小さなサイズが多いので、フランス伝統菓子も小さなサイズで作っている。
ダヴィッドさんは1977年フランス、コルシカ島出身。ミュージシャンをめざし、その後パンとヴィエノワズリーの国家資格(CAP)を取得。「メゾン・カイザー」などで3年半働いたのち、奥さんの裕穂さんと07年3月に「ダヴィッドパン」を開業。
text & construction by Kaori Shibata photographs by Hiroshi Fushiki
本記事は雑誌料理王国2009年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2009年7月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。