岩柳麻子さんは「宝石のパフェ」で評判のパティシエール。その色選びの法則を探ってみよう。
パティスリィ アサコ イワヤナギ 岩柳麻子さんに学ぶおいしいデザートの色
休日には、開店前から店頭に長蛇の列ができる。お客の目当ては、見目麗しくおいしいパルフェ(パフェ)。1カ月ごとにメニューが変わるため、毎月来店する常連も少なくない。「私にとって『おいしい色』は、旬のフルーツの色なんです」
岩柳麻子さんは、その季節の色を基本に据え、色の組み合わせを考える。なかでもパルフェは高さがあるので、横から見たときの配色にも気をつかう。「造形も色もバランスが大切です」スタッフにはいつも、写真を見て真似をするのはやめましょう、と言っている。なぜなら、果物も野菜も一つひとつ形も色も違うから。「素材の色や形を見極めて、自分でバランスを考えてつくり上げることが重要です」と岩柳さんは話す。その上で、ゲストが食べ進んでいくときのリズムを考える。気持ちよくスプーンが進むように、食感や味を変化させる、という。
同じ果物であっても、生のものがあったり、キャラメル煮があったり……。ジェラートやジュレもあり、色や食感、味が微妙に変化して、結構なボリュームのパルフェなのにもかかわらず、飽きることなく、気づくと完食してしまう。見た目の美しさはもちろん、食べ手側に立ったパルフェづくり。それが、お客の心を捉えて放さない。
1年のなかでも旬の時期は、その果実や野菜がいちばんおいしくなるとき。岩柳さんは、「そのときの色こそが、おいしい色だと思う」と言う。そのおいしい色を存分に楽しんでほしいから、メインのフルーツの皮はむかない。それが、岩柳流盛り付けの原則だ。「できるだけお客さまご自身にも、今、何を召し上がっているのかを、目で見て実感していただきたいんです」
とくに好きなのは和の色。「例えば柿。子どもの頃、家の柿の木になっていた柿って、果肉が少し茶色っぽかったですよね。ああいう色合いのものが、私は好きです」「柿と安納芋のパルフェ」には、和歌山県産の紀ノ川柿と山梨県産の富有柿を中心に、太秋柿、庄内柿など旬のものを使う。渋い色調がおしゃれだ。
多くの色は使わず、メインの果物を決めたら、その色に合わせて他の色を決めていく。「私の場合は、まず、そのフルーツを食べてみて、そこから、イマジネーションを膨らませていきます」と岩柳さんは話す。
「パルフェビジューポワール」は、西洋梨のパフェ。今回は、西洋梨のなかでも新潟県産のルレクチェを中心に使用しているので、色味はあまりない。ただ、ジェラート、フレッシュな西洋梨、ブランマンジェなど、テクスチャーが異なるものが重なっているため、色味は同じでも決して単調ではない。さらに、底にあるフランボワーズソースの赤が差し色となって、全体をキュッと引き締めている。色鮮やかではないが、華やかさを感じさせるパルフェだ。
岩柳さんは染織を勉強していたこともあって、「日本の伝統色にはとても惹かれる」と言う。そう言われてみると、「柿と安納芋のパルフェ」も「パルフェビジューポワール」も、西洋の色というよりは日本に古くからあるような色味だ。クレアのなかに入っているカシスのソースの深紅も、どこか日本っぽい。
「お店で使っている果物は、ほとんど国内の農家さんが栽培しているものです。アクセントとして、ときどき海外の果物を使うことはありますが、基本的に食材は国産です」
日本の土壌で育った果物がもつ日本ならではの天然の色彩。それが岩柳さんのセンスと知識とテクニックで、「宝石のパフェ」と呼ばれるエレガントなデセールに変身する。
Asako Iwayanagi
東京都出身。高校卒業後、桑沢デザイン研究所のドレスデザイン研究科で染織を勉強。その後、祖母がお菓子作りに携わっていたこともあり、パティシエールの道へ。2015年、「パティスリィ アサコ イワヤナギ」をオープン。18年10月、「アサコ イワヤナギ プリュス」を開く。
山内章子=取材、文 依田佳子=撮影
本記事は雑誌料理王国2019年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2019年1月号 発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。