2020年を迎えて、プラントベース市場へ参入する日本企業が増えた。ここでは今秋から大豆ミートを使った新商品を売り出している「ドトールコーヒー」と「フレッシュネスバーガー」を取材。2社はなぜいま大豆ミートに着目し、販売してみてどのような手ごたえを感じているのだろうか。
駅前や商店街、繁華街に行けば必ずそこにある「ドトールコーヒーショップ」。手頃な価格で、年齢性別問わず入りやすい街のコーヒーショップとして、国内に1000店舗以上を展開する。同社は9月17日、植物性由来の原料※を使用した「全粒粉サンド 大豆ミート ~和風トマトのソース~」(店内飲食360円、テイクアウト354円)を全国発売した。
開発担当の山本翠さんに大豆ミートを使い始めた理由を聞くと、新商品開発にあたって情報を集める中で、海外では週1〜2回だけなど気軽に菜食をとりいれる “フレキシタリアン”が一般的になりつつあるという情報を見つけ、「インバウンド需要に応えたい」と考えたそうだ。
3月には20店舗限定でテスト販売を開始。国内メーカーの大豆ミートを使用して、ソースにはカツオ出汁やハチミツ、パンにはマヨネーズといった動物性由来の原料も使っていた。「テスト販売については大々的に宣伝しませんでしたが、お客様からたくさんのお問い合わせをいただきました。その中で多かったのが『全て植物性由来の原料で作ってほしい』といったご意見でした。そこで全国発売に向けて、動物性由来の原料を使わない方向での開発がリスタートしたのです」と山本さん。和風トマトソースにはカツオ出汁の代わりにシイタケ出汁でうま味をプラス。ハチミツの代用としては、コクがあってやわらかな甘みの砂糖を探し、何種類も試して決めた。またテスト販売ではコールドサンドだったが、より満足感を高めるために、ホットサンドでの提供に変えた。
COVID-19の影響で東京オリンピックが延期され、5月に予定していた全国発売も9月に延びたが、消費者の反応は上々という。かつてドトールは“男性サラリーマンの憩いの場”といった印象があったかもしれないが、実際の客層は、男女比が半々、年代も幅広い。「大豆ミートが気になっていたけれど食べたことが無かった方へ、ドトールが手軽なきっかけを提供できたらうれしいです」と山本さん。今後、ドトールでの大豆ミートシリーズの拡充は、消費者の反応や、来年の東京オリンピック開催の有無が鍵となりそうだ。
おいしくてカラダにいいものをていねいに手づくりする――、これがフレッシュネスバーガーのブランドコンセプトだ。始まりは1992年12月14日。「ほっかほっか亭」創業者の一人である栗原幹雄氏が、東京都渋谷区富ヶ谷に1号店を開業した。バンズはかぼちゃを練り込んだ特製品を手作り、ポテトは店内でジャガイモをカットして揚げ、ジュースは目の前で果実を絞って出す。そのこだわり様が話題となった。95年にはフランチャイズ化し、2000年には100店舗までに拡大し、現在では全国に179店舗を展開する。
そんなフレッシュネスバーガーも、10月1日から、大豆ミートのパティを挟んだ「THE GOOD BURGER」(税込価格480円)を全国発売した。同商品は日本発のスタートアップ「DAIZ」が手がける植物肉「ミラクルミート」が採用されたことでも注目を集めている。「昨年夏、商品開発担当者がハンバーガーの本場である米国へ視察へ行き、現地では近年、環境や健康に配慮した植物性ミートが注目を集めている事を目の当たりにしたんです。日本でもこの流れは必ず来ると確信し、植物性ミート商品の開発を決めました」と同社マーケティング部営業企画担当の青木美華さんは話す。 渡米の際、ビヨンドミートやインポッシブルミートを試食したところ、肉を再現するために添加物が多く使われたそれらは、フレッシュネスが求める味とはマッチングしなかった。米国のほか、イスラエルやフランス、日本など、さまざまな国の企業が作る代替肉を10種類ほど試食して、ようやくたどり着いたのが、DAIZのミラクルミートだった。
一般的な大豆ミートは大豆から油を絞った残渣物を膨らませて作られるが、DAIZのミラクルミートは違う。まず原料は、大豆特有の臭みを発生させない「高オレイン酸大豆」。油を絞らず丸大豆をタンクに入れて、特殊な発芽法「落合式ハイプレッシャー法」で負荷をかけながら発芽させる。そうすると、発芽大豆のアミノ酸組成を食肉に近づけることができて、うま味や栄養価も高まる。最後に独自の膨化形成技術で発芽大豆をはじけさせれば、ミラクルミートの原料の出来上がりだ。余計な添加物を加える必要がなく、大豆ミート特有の嫌な臭いがない。「試食段階ではミラクルミートの製法までは把握しておらず、おいしさに感動してこれだと決めたところ、DAIZの商品だと知ったようです」と青木さんは振り返る。 「THE GOOD BURGER」は、ミラクルミートの美味しさを感じてもらうため、トッピングはあえてシンプルにグリーンカールのみ。大豆ミートと相性の良い、醤油麹をベースにしたテリヤキソースで仕上げた。肉好きの筆者が食べてみても、違和感がなく、まるでお肉のような食感に感動した。
フレッシュネスは引き続き、DAIZとコラボレーションして、ナゲットなどのサイドメニューの展開やハンバーガーのラインナップ拡充などを考えているという。ハンバーガーにはお肉が欠かせない――、そんな概念が今変わりつつあり、植物性ミートが当たり前の選択肢として浸透していくのかもしれない。
※低糖質バンズ、テリヤキソース、マヨネーズには動物性原料を使用している
■ドトールコーヒーショップ
https://www.doutor.co.jp/dcs/
■フレッシュネスバーガー
https://www.freshnessburger.co.jp/
text 笹木菜々子
料理王国10月号では「プラントベースと日本の食」を特集しています。欧米諸国で話題となっている背景や、日本に古くからあるプラントベースである精進料理、若手シェフが考えるプラントベースの一汁一菜レシピなど、プラントベースを古今東西、多角的に掘り下げました。最新の食の流れを知りたい方におすすめの一冊です。