それはまさにフラワーボックス。箱を開けた瞬間、誰もが笑顔になる。フレッシュマンゴーの薔薇のスイーツ「フルール・ド・エテ」だ。作っているのはフランス料理出身の庄司夏子さん。南青山の「フロリレージュ」でスーシェフを務めていた実力の持ち主だ。2014年に、代々木上原にオーダーメイドのスイーツの店「エテ」をオープンさせた。現在、注文が殺到し、生産が追いつかずに受注をストップすることもある人気店である。
「エテ」というブランドを確立するには、何かアイコニックな商品が必要だと考えた庄司さん。そのとき思い浮かんだのが、前に働いていたレストランでの1シーンだった。マンゴーの薔薇を作ってゲストに出したところ、ゲストの表情がパッと明るくなった。庄司さんは、その時の喜ぶ顔が忘れられないという。
「こういうサプライズ感のあるものを作りたいと思いました。それをレストランではなく、コフレ(小さな箱)でステキな演出をできないかな、と思ったのがきっかけです」
パッケージは、庄司さんが一から手がけた。渡されたときに、これがケーキだとわからないよう、あえてシックなデザインにした。
「フルーツカットの技術で言えば、マンゴーで薔薇を作るというのはオーソドックスなこと。だからお客さまの心を動かすには、箱だったり、サプライズ感だったり、そういうものに力を入れてひとつの作品に仕上げるのが大事だと思いました」
箱の底には女性でも食べやすいように、あらかじめ9つにカットされたタルト生地を敷き、その上にクレームパティシエールをひく。ダイス状のマンゴーを全体に散らしたら、いよいよ薔薇の飾り付けだ。
マンゴーの果肉に、斜めに包丁を入れて薄切りにする。マンゴーは切ってから劣化が進むため、できるだけ手で触らないよう切っていく。薔薇の芯の部分を小さめのマンゴーで作り、3段目くらいから大きめの花びらを成形していく。
「時間をかけると果肉の組織が壊れて、薔薇をキレイに形成するのが難しい。だから、できる限り素早くやるのがコツといえばコツです」
箱の中心部分と四隅に少し大きめの薔薇を植えたら、残りのスペースに小さめの薔薇を埋めていく。
「薔薇の花は、大小に大きさの違う方がリアリティが出ます」
少しゆるめに作ったツヤ出しを、めくれあがった花びらの部分に塗ればでき上がり。
「フルーツは切り立てがいちばんおいしいので、お客さまが来店される時間ぎりぎりに仕上げています」「世界にひとつ」が店のコンセプト。今、発表しているコレクションのベースは今回のマンゴーのほか、イチゴ、ブドウ、桃の4種類に絞っているが、ゲストの細かな要望に応えて作るオーダーメイド方式をとっている。最大でも1日10個しか作れない限定品だ。
実は庄司さん、夜は同じ場所で1日1組4名までのレストランを開いている。料理はおまかせのコースのみ。「フルール・ド・エテ」を買った人だけ予約ができるシステムだ。庄司さんがこういうやり方をするには理由がある。
「利益率だけを考えたら、レストランに専念した方がいいんです。でも、海外での修業経験がない20代の女性料理人にはなかなか光があたらないのが現実です。どうすれば自分の目指している料理を発信することができるのかを考えました」
そこで意識したのがブランディング。ラグジュアリーな商品を限定で供する店として認知されれば、レストランにも足を運んでもらえるのではないか。その目論見は見事に当たり、当面休む時間はない。
エテ
été
東京都渋谷区富ヶ谷1-2-6 Raffine代々木公園101
● 10:00~20:00
※ 要予約
● 月、第1金休
http://ete.tokyo
名須川ミサコ=取材、文 星野泰孝=撮影
本記事は雑誌料理王国第260号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第260号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。