「味坊」の看板メニューのひとつ「炭火羊肉鍋セット(ラム肉のしゃぶしゃぶ)」1人前1500円。
ラム肉の薄切り、白菜、ダイコン、水菜、豆腐、春雨などをコクのある豚骨スープに通して食べる。スープには薬膳に使うトウジン(血圧を下げる作用などがある)、クコシ(ビタミン豊富)、ナツメ(鉄分やカルシウムを含む)などを使っている。
ただし、鍋料理で「絶対に変えないと決めている」ことがある。それは銅鍋を使い、炭で調理すること。現在は中国でも、ガスや電気の鍋で提供するモダンな店が増えているが、梁さんは、あくまでも昔ながらの炭にこだわり、銅鍋は北京から仕入れている。「炭を使った時の熱の伝わり方と、電気やガスとは違う。調味料や食材だけでなく、調理法にこだわることも大切だと思います」
この言葉通り、たとえば鍋に入れる豆腐は一度冷凍してから使う。「故郷では、豆腐を雪中で保存していました。冷凍期間は長いほどよく、水分が抜けてスポンジのようになる。これがスープをよく吸って、とてもおいしいのです」
日本でも鍋が恋しくなる季節。梁さんの料理とやさしい笑顔が心身ともに和ませてくれるだろう。「医食同源」が、人間のために人間が考え出した知恵なら、それを伝える人もまた、愛ある人であってほしい――。
「味坊」を訪れるゲストはそれを求めて、今日も店にやってくる。
厨房でフライパンをふりながら、「料理の師は母親」と語る梁さん。母親とは野草摘みにも出掛ける。「お酒の飲み過ぎで肝臓が疲れている人は、タンポポの葉をかじったり、ジュースにして飲むといいですよ」。
Hosho Ryo
中国・東北地方にある黒竜江省のチチハル出身。
18年前に来日し、東京・足立区で中華料理店を開くが、2000年に移転。神田駅のガード下に東北料理専門店「味坊」を開店させた。
料理店での修業経験はなく、母親の家庭料理から学んだ。
味坊/Ajibou
東京都千代田区鍛冶町2-11-20
☎03-5296-3386
● 11:00~14:30、17:00~23:00
●日 祝休
●コ ース 3000円~
●80席
上村久留美=取材、文 依田佳子=撮影
text by Kurumi Kamimura photos by Yoshiko Yoda
本記事は雑誌料理王国第255号(2015年11月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第255号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。