世界から届いた話題のグルメ情報「ニューヨーク編」


〝ノーマル〞が戻りつつあるNYに注目の新店

COVID-19ワクチン接種が進んだニューヨークでは様々な規制が解除され、〝ノーマル〞な街の様相が戻りつつある。地下鉄は24時間走り、飲食店は屋内外のオペレーションをフル稼働させ、今までに失った機会を取り戻そうと必死だ。そんな中、ブロードウェイの劇場街に美食のデスティネーションとなるレストランが誕生した。

「Iris」はシェフのジョン・フレイザーによる新プロジェクト。エーゲ海スタイルをテーマに、彼のルーツであるギリシャの食を掘り下げながらトルコにもインスパイアされた料理を提供する。フレイザーといえば、野菜の可能性を追求し続けているシェフとして有名だ。ミシュランの星も獲得した彼のヴィーガンレストラン「Nix」は昨年パンデミックの影響で閉店したが、この店でもベジタリアン仕様の皿は健在。そら豆やアーティチョーク、モレル茸などマーケットで調達した旬の食材を使い、緻密なプラントベースの皿に昇華させている。もちろん、魚や肉料理の質も素晴らしい。「カジキのケバブ」、「魚貝のエーゲ海シチュー」といったシーフードが評判で、ラムの胸腺を串焼きにしたギリシャの伝統料理「ココレッツィ」、オリーブオイルでポーチしたショートリブなど、肉好きの人間の琴線に触れる皿もある。なおワインは180種類を誇るリストの半分以上が、ギリシャとトルコのボトル。エーゲ海地方に絞ったペアリングを提案してくれる。

138席を擁する店内はゆったりとした造りで、色味を抑えた内装が上品な印象。街中に地中海レストランが増えている今、この店は料理も雰囲気も一歩抜きん出た存在だ。

シェフのユニフォームに変革を起こす精鋭ブランド

キャンバス地やワックスコットンなどの耐久性のある素材を使用。街を歩いても違和感のないデザインだ。

ニューヨークでは昨今、レストランワーカーたちの装いがスタイリッシュに進化している。その立役者とも言うべき存在が、ロウアーイーストサイドに工房をもつ飲食・ホテル業界

専門ワークウェアメーカー「Tilit」だ。元シェフのアレックス・マックレリーと元サービススタッフのジェニー・グッドマンが2012年に設立。「よくあるシェフ用パンツは耐久性に乏しく、

当時のワークウェアがダサくて嫌で(笑)。自分が着たいものを作ろうと思いました」とアレックスは語る。シェフ用シャツとパンツ、2種類のエプロンだけでスタートし、デザイン性の高さと機能性でその名は瞬く間に業界内に広まった。

「Tilit」のウェアは機能性を考慮しながら、ストリートに馴染む色やシルエットを採用。ジャンプスーツやパンツは私服の延長のように見える。また、モデルをシェフたちが務めているのもユニークだ。最近ではファッション雑誌にも取り上げられ、業界外にもファン層が拡大中。堅牢なシェフズコートやシャツがおしゃれ着に、という現象は愉快だ。

そんな人気の加熱ぶりをよそに、彼らは大量生産とは異なる真摯なものづくりを続けている。制作チームもレストランワーカーで編成され、現場を知る人間がデザインに関わる。また、メイド・イン・USAにもこだわり、一部の商品を除き、ニューヨークとLAを制作拠点に置いている。

この1年、方向転換を余儀なくされ、マスクの制作販売を通じて食関連のボランティアとヘルスケアワーカーへのサポートに奔走してきたが、レストラン業界が復興に向かう今、彼らのユニフォームを見る機会は増えるはずだ。

Reported by Yumi Komatsu
ニューヨークの食、デザイン、カルチャーを分野に活動するライター&プロデューサー。飲食店の激戦区イーストビレッジ住まいで体重増加中。

本記事は雑誌料理王国317号(2021年8月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は317号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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