介護現場の食にイノベーションを起こす最新調理器


食材の見た目を保ったままやわらかく。
介護現場の食にイノベーションを起こす最新調理器

見た目が悪い料理を前にして箸が進まないのは、健康な人も、病気を抱えた人も同じことだ。病気や加齢で噛んだり飲み込んだりする力が衰えても、見た目がきれいで、慣れ親しんだ家庭の味を楽しみたい。そんな希望を叶える最新調理器がある。

ギフモ「デリソフター」

家庭料理やお惣菜の見た目そのままに短時間でやわらかく調理する

介護現場の食にもイノベーションが起きている。2019年4月に設立されたパナソニック発のベンチャー企業「ギフモ」は、今年7月上旬、やわらか食調理器「デリソフター」(43,000円)を発売。この調理器の最大の特徴は、食材の見た目を保ちながら、口に入れると歯茎や舌で潰せるほどやわらかい状態に調理できることだ。家庭料理やお惣菜など、一度火を通したものに使える。

病気や加齢などがきっかけで、噛んだり飲み込んだりする力が弱くなった人が食べる食事は、通常だと、とろみをつけたり、ミキサーにかけたりして、飲み込みやすいような処理をする。しかし、「見た目が悪い」「味が混ざる」「家族の中で自分だけ食事が違うのはさびしい」といった理由で食欲が湧かず、食事の量が減り、体も弱るという悪循環が起こりがちだ。
 「食べる人にとって料理の見た目はとても大切ですよね。食材本来の形を保つことで、見た目による食欲減退を防ぐことができます。また料理する側にとっては、おかずを普通に作って、もしくはお惣菜を買ってきて、必要な分だけ取ってデリソフターでやわらかく調理するだけ。今まで介護用の食事を別に作らなければならなかったのが、ひと手間で済むようになると、負担がぐっと軽くなります」と同社の森實将代表は話す。

家庭料理やお惣菜の見た目そのままに短時間でやわらかく調理する

「デリソフター」のアイデアは、同社で営業と広報を務める、水野時枝氏と小川恵氏によるものだ。水野氏の祖母は通称「かまとバアちゃん」と呼ばれて長寿でギネスブックに載った人物。実家は昔ながらの大家族で、家族全員が同じ食卓を囲み、同じものを食べることが日常で、祖母はいくつになっても慣れ親しんだ家庭料理を自分の口から食べることを大切にしていた。一方で小川氏は嚥下障害を持つ父親の介護で、食の悩みを抱えていた。その二人が出会い、化学反応が起きた。

 食材の形を崩さずにやわらかくできる秘密は、「調理前のひと工夫」「高圧調理」「スチーム加熱」、この3つだ。まず調理前に付属のデリカッターを使って食材の繊維を断ち切る。そして2気圧の圧力をかけながら、スチームの熱を加える。食材の切れ目から効率良く熱が伝わるため、食材の形が崩れることなく、短時間で歯茎や舌で潰せるやわらかさになる。

 噛んだり飲み込んだりすることが難しくなっても、人は食べなければ生きていけない。人は食べものから明日を生きる力を得る。近ごろはCOVID-19の影響で、料理のテイクアウトを実施しているレストランも多い。デリソフターを使えば、思い出のあの味もやわらか食にできる。

text 笹木菜々子

本記事は雑誌料理王国2020年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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