キッチンのテクノロジーは進化する。


その人の体調や気分にぴったりのお茶を淹れるティーメーカー、介護現場の食における課題に光を当てた調理器の出現など、暮らしを支えるキッチン周辺も進化を遂げている。
それらを生み出した人々は、効率の良さに加えて、人の気持ちに寄り添ったテクノロジーの介入方法を模索しているように思える。

シグマクシス田中氏による解説

 キッチン周りの進化の前提となる家電のIoT化は2013年頃から起きていました。キッチンやリビングがネットとつながり、家電がつながる。実際、キッチンアイテムのスマート化は、この数年で一気に進みました。

 そもそも家電がネットにつながることの生活者にとっての価値とは何か。使用状態のモニタリング、フィードバックが可能になるなどさまざまあるでしょうが、調理家電において最大の利点は機器の制御機能――レシピのアップデートですよね。フライパン、オーブンレンジ、コーヒーメーカーといった加熱系の調理家電なら時間経過に応じた温度管理のプログラムをアップデートする。ハードにその時点での最高をぎちぎちに詰め込むよりも、都度ソフトウェアをアップデートしたほうが効果的。

 白物家電はいったんコネクト化されましたが、近年ハードも含めて新機能を盛り込む流れがあります。ドイツのLIEBHERR(リープヘル)社やBOSCH(ボッシュ)社が冷蔵庫内の様子を写すことができるカメラを冷蔵庫につけ、食材情報を可視化し、レシピ提案するという冷蔵庫を開発しています。

 本特集の冒頭でも触れた冷蔵機能付きのスマートオーブンを開発した”Suvie(スーヴィー)”のロビンというCEOは14歳ごろからテクノロジー系のレビューを書いていたりして、アメリカのすそ野の広さを感じますね。

 ほか、アメリカならではのキッチンアイテムとなるとホームブルワーでしょうか。日本の酒税法では家庭でお酒の醸造はできませんが、アメリカでは日常的に行なわれています。ホームブルワリーからマイクロブルワリーが盛り上がり、いまのクラフトビールのブームに結びついたところもあります。

 飲料分野で言えば、日本でも”teplo(テプロ)”というティーポットがリリースされました。自分の心身の状態に合わせたお茶を抽出する”お茶メーカー”で、簡単な質問に答えれば、飲みたいお茶の提案をしてくれる。

 また家にいながらにしてオンラインで一緒に料理ができる「イエツナキッチン」やシェフが作り置きにきてくれる「シェアダイン」といったサービスは今年のコロナ禍だからこそ伸びたサービスでしょう。

  和食器専門のサブスクリプション “CRAFTAL(クラフタル)”も、限られた人のものになりつつある和食器に新しい角度から光を当てる。ビジネスという枠組みを超えた素晴らしい取り組みではないでしょうか。

科学的に料理を分析した衝撃の書「Modernist Cuisine」Nathan Myhrvold・Maxime Bilet共著 全5巻

text/写真提供 松浦達也 取材協力 シグマクシス 田中宏隆

本記事は雑誌料理王国2020年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする