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予約の取れない「シンシア」がサステナブルシーフードをメインにした新店をオープン!


 9月11日、東京の神宮前・原宿エリアに誕生した食の施設「JINGUMAE COMICHI」に、話題の新店がオープンした。ミシュラン一つ星のフレンチレストラン「シンシア」のオーナーシェフ石井真介氏が手がける、姉妹店の「シンシアブルー」だ。ここはビュッフェ形式で、メイン食材として“サステナブルシーフード”を使う。石井氏が新たに原宿の地から発信するメッセージとは?

「お客様の喜び」と「サステナブル」、 料理を提供する中で感じ始めた矛盾

 スタイリッシュな焼き物の皿に丁寧に盛り付けられた魚介類、ウサギの形の最中などの料理が各テーブルいっぱいに運ばれ、歓声があがる。従来の「ビュッフェ」のイメージを覆すのが、今年9月にミシュラン一つ星のイノベーティブフレンチ「シンシア」のオーナーシェフ、石井真介氏が原宿にオープンした「シンシアブルー」だ。「おいしく、楽しく食べる」ことで、水産資源を守る「サステナブル」な選択を身近に感じて欲しいと開店した。

 「料理でお客様に喜んで欲しい、というのが料理人の本能なんです」と石井氏は言う。しかし、その本能は、「食材の見栄えの良い部分だけを使う」など、サステナブルと相反する矛盾をはらんでいる。

 石井シェフがこの問題を真剣に考えるようになった背景には、3年半前から、水産資源の危機的な状況を受けて設立された一般社団法人「シェフス・フォー・ザ・ブルー」に参加したことが大きい。同法人によると、実際に、日本の総漁獲量はピークの1984年と比べると、2019年には約1/3に減少しているという。「自分の気持ちに忠実に、真心を込めた料理を」と、自らの店に「シンシア」とつけた石井氏だが、「喜ばせたいと料理を作っても、未来の世代を不幸にしていいのか」。そんな疑問が強くなっていった頃に、新店を出さないか、と声がかかった。コロナ禍のさなかで、迷いはあったが、人々の価値観が大きく変わる今こそ、敢えて一石を投じようと決めたのだという。

ビュッフェ形式に見出した光明

 そこで考えたのが、持続可能な漁業による天然や養殖の水産物に与えられる、国際的な認証を取得した水産物を使ったビュッフェ形式の店だ。

 ビュッフェならば、フリットやブイヤベースなどに工夫することで、端材を無駄なく使い切れる。席数26と、決して大きくないため、作りすぎも起きず、残りをまかないにすれば、食材をほぼ100%食べ切れる。カジュアルな雰囲気で、家族連れなどの来店を可能にし、未来の食育にもつなげてゆく狙いだ。

 日本ではそもそも、海外の厳しい基準を満たした魚介類の数が非常に限られており、冷凍の輸入品が多いが、ここ数年、認証取得を目指し持続可能性を向上させる「漁業改善プロジェクト(FIP、AIP)」に参加する国内漁業者が増えてきており、こういった魚も利用することで、「日本発のサステナブルシーフード」を後押しすることができる。

 さらに、水分が多くいたみやすいなど、既存の流通に乗ってこなかった「未利用魚」も使う。「神経〆など、魚の処理の技術が格段に上がった今、良い個体を選びきちんと処理をすれば、おいしく食べられる未利用魚も多い」と、石井氏は語る。 

 また、イノベーティブ全盛の今こそ、若い世代にフランス料理の伝統技法を「サステナブル」に伝え続けるという意味もある。「料理人として幅を広げるためには、伝統料理を作り込んだ経験は不可欠だと思うのです」。

「楽しく、おいしく、満足」がサステナブルという考えを持続可能(サステナブル)にする

 石井氏の「お客様に喜んでもらいたい本能」は、新店でも生かされている。メインディッシュには「シンシア」のシグネチャーディッシュである「魚のパイ包み」など、見た目も楽しく「映える」料理も多い。カトラリーはファインダイニングでも使われるクチポール製だ。

 コロナ禍を受けて、ビュッフェ台に並べるのではなく、席につくとまず13皿の前菜がテーブルに並び、好みで追加、タイミングを見てメインディッシュとデザート一皿ずつが出る仕組みを取る。スタッフが盛り付け、テーブルに運ぶ分、手間がかかるが、追加オーダーに関しては、QRコードを読み込んでゲスト自身のスマホで行う方式を採用。ドリンクはセルフ方式とするなどして、少ないスタッフ数で、サービスを提供できるよう工夫する一方、ジュースはフルーツピュレとお茶をベースにした自家製にして、味の満足度を高めている。「以前シェフを務めていた店『バカール』は、駅から遠く、古い物件を選ぶことで支出を抑えつつ、味に直接影響する食材、食器などは上質なものを揃えて満足していただいた。これからの外食は『低価格競争』に走るのではなく、無駄を省き、満足度を上げることが大切でしょう」。

 目指すのは価値観の変革。「味わわなければ、選んでもらえない。同業のシェフたちにも、その可能性に気づいてもらえれば。将来的には、シンシアブルーの魚をシンシアで使うこともありうるかもしれません。ゆくゆくは価格だけではなく、サステナブルであることが消費者の選択の一つになるようになっていけば良いと思っています」。

text 仲山今日子

本記事は雑誌料理王国2020年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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