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飲食店経営とサステナビリティの両立。「シンシア・ブルー」にみる、これからのレストランの在り方


アジアのベストレストラン50が発表する新しいランキング

今年3月、2年続けてオンラインでの発表となった「アジアのベストレストラン50」。今回は、新しく50位までのみならず、100位までランキングの発表を広げ、さらに「エッセンス・オブ・アジア」という、アジアの各地域で地元の人々に愛されるレストランが発表された。

去年12月のラテンアメリカ版に続いての「エッセンス・オブ・アジア」対象地域は、バングラデシュ、カンボジア、ラオス、ミャンマー なども含む、20ヶ国49都市に及ぶ。

日本からは、なつかしゃ家(鹿児島・奄美大島)、本家尾張屋(京都)、パセミヤ(大阪)、イートリップ(東京)、シンシア・ブルー(東京)、寿司大(東京)などがラインナップ。

世界のベストレストラン50のウィリアム・ドリュー コンテンツディレクターは筆者のインタビューに対し「このリストの発表は、困難な時代にあって、より多くのレストランをサポートしたいということ、さらに、地域社会に、料理の伝統を守り、コミュニティに重要なつながりを提供するなどのプラスの影響を与えたレストランを認識したいと思ったのが理由」と語った。

選定は、去年と今年発表されたアジアのベストレストラン50に関わるシェフやレストランオーナー、地元の専門家からの個人的な推薦の後、レストランからの話を聞く形で決定された。

注目の受賞店「シンシア・ブルー」

個人的に、とりわけ印象的だったのが、サステナブルなシーフードに特化したテーブルビュッフェスタイルのレストラン「シンシアブルー」のランクインだ。ミシュラン一ツ星のフランス料理店「シンシア」オーナーシェフの石井真介氏が去年9月、多くの人に水産資源の危機的な現状について知ってほしいと東京・原宿に開店した。国際認証機関に持続可能と認められた漁業で生産した天然・養殖魚に加え、いたみやすいなどの理由で一般流通に乗りにくい「未利用魚」と呼ばれる魚を使い、フランス料理のテクニックで、無駄なくおいしく使い切る。

今回の受賞理由は、持続可能な水産資源について考える団体「シェフス・フォー・ザ・ブルー」のシェフたちの理事として、地域にサステナブルな考え方を広め、地球に優しい料理を作っていることなどが挙げられている。

受賞を受けて石井氏は「魚との関わりが深い日本料理、日本人は魚の扱いにかけては世界一だと認識されているにもかかわらず、水産資源の管理ができていないことが勿体ない、という思いが活動の原点にあります。アジアの中で、持続可能な漁業への考え方が重要である、という認識を持ってもらえた意義は大きいと思います」と語る。

ビジネスとしても「サステナブル」であること

石井氏はこの他にもシンシアでミシュランガイドのサステナブルなレストランに与えられる「グリーンスター」など、数多くの賞も受賞しているが、前代未聞のサステナブルに特化したレストランの設立は、様々な困難を引き受ける覚悟での船出だった。

「そもそも興味を持ってもらえるのか」という点のみならず、サステナブル認証を受けていない食材が混入していないことを証明するために、使用した分量を日々記録するなど、手間もかかる。コロナ禍に対応するため、テーブルにサービススタッフが一皿ずつ運ぶ「テーブルビュッフェ」スタイルを取っているため、現状では人件費が多くなっている。しかし、店はコロナ禍にも関わらず人気を博し、将来的に通常のビュッフェスタイルにできれば、理想的な収支のバランスも達成できる見込みだという。

石井氏が、収支のバランスにこだわるのは、オーナーシェフとしての自分自身のためだけでなく、サステナブルレストランの成功事例として新規参入を促す、モデルケースでありたい、という思いがあるからだ。「一つのジャンルができるくらい、多くの人がレストラン選びの際に、サステナブルかどうか、を基準としてほしい。そのためには、志を同じくする店が増えていく必要があるのです」

サステナブルシーフード普及の「活動拠点」としてのレストラン

店を営業し、活動をすることで、レストラン業界全体に革新を起こしていく、その目的の達成のため、シンシア・ブルーはレストランとしてだけでなく、サステナブルな漁業について知ってもらうための活動拠点という側面も持つ。「活動を広めるためには、一般消費者へのアプローチが必須」という考えのもと、今年2月には宇宙開発技術を転用したテクノロジーで、環境負荷の少ない水産養殖の実現を目指す、ウミトロン株式会社と共同で、同社の魚を使ったイベントをクラウドファンディングスタイルで開催。多くの一般客がサステナブルなシーフードを味わいつつ、その背景について学ぶ機会を提供した。

(C)Yuske Onuma

そんな流れを受けて、シンシア・ブルーに続く、サステナブルシーフードの店が早くも生まれようとしている。東京のミシュラン一つ星フレンチ「ラペ」のオーナーシェフ、松本一平氏が6月に開店予定の「おでんや平ちゃん」だ。松本氏は実家が和歌山でおでん屋を営んでいたことから、元々冬に、期間限定のイベントとしておでんのフルコースを提供していた。「これまで、ラペでもサステナブルシーフードを活用してきたが、和食でも使えることを訴えたい」と考え、サステナブルシーフードを使ったおでん屋の開店を決めた。おでんに欠かせない練り物は、魚を無駄なく使い切ることもでき、未利用魚などの活路を見出すことにもなる。石井氏のアドバイスも受けて、クラウドファンディングでの周知なども行っており、これからのサステナブルシーフードの可能性を広げる注目店となっていきそうだ。

石井氏は「今後も、希望するシェフや飲食店経営者がいれば、自分の経験を積極的に共有していきたい。サステナブルなシーフードを生産する方々は、国内ではまだ少数で、販路も広くない。それでも頑張っている方々をサポートするためにも、仲間を増やし、裾野を広げることは大切。僕らが修業を始めた20年前と比べても、海の環境は大きく変わってしまっている。子どもたちがちゃんと魚を食べられる環境を残していくためにも、今、できることを始めていくことが大切なのです。日本人シェフといえば、魚のプロという認識が世界的にある。その僕らが声を上げれば、世界に与える影響も大きいはず。今回の受賞でその思いが一層強くなった」と語り、思いも新たに、今日も活動に邁進している。


仲山今日子=取材、文 

仲山今日子
ワールド・レストラン・アワーズ審査員。元テレビ山梨、テレビ神奈川ニュースキャスター。シンガポール在住時、国営ラジオ局でDJとして勤務。世界約50ヶ国を訪ね、取材した飲食店や食文化について日本・シンガポール・イタリアなどの新聞・雑誌に執筆中。


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