【コラム】優雅に見える!フォークを巧みに使いこなす方法


視線集中、マナーの基本。フォークとナイフはいかに

泉にあるイタリアンレストランを訪れたときのこと。入店したとたん目に飛び込んできた強烈に目立つカップル。男性はミドルエイジで、遠目で見てもブランドの輝きに満ちた濃紺のスーツをりゅうと着こなし、浅黒い肌に短髪。ピカピカに光る靴の先までいかにもちょいワルを地でいくタイプ。一方の女性は、座っていても八頭身とわかる小顔ながら、それぞれのパーツは彫刻のよう。これまたモデル以外の仕事は選べないでしょうといった風情。すでに彼らはプリモピアットに入った様子で、パスタが運ばれていた。

そのとたん「ズズズズズー」という大音量が店中に響き渡った。あまりのノイズに驚いてそちらを見ると、件のモデル嬢と視線がぶつかるも「この人とは、なんの関係もないのよ」と、その目が必死に訴えていた……。

そう、西洋料理において日本人(特におじさん)がまずやってしまうマナー違反、それは食事中に音をたてること。「エノテカ・ピンキオーリ」や「アロマフレスカ」といった超有名店ですら、どこからともなくパスタを食べる音が聞こえるのが実情なほど、油断すると音が出てしまう(確かにズズズズといく方が、私たちには食べやすいに違いないが)。

日本人は食事の最中さまざまな音をたてることに寛容で、「ラーメンをすする」など、シズル感たっぷりな動詞まであるが、西洋料理においては、もっとも恥ずかしい行為だと肝に命じておこう。特にパスタやスープを食べる際は、絶対に音をたてるまいとの強い精神集中が必要だ。

次にナイフ・フォーク。

「いやー、ナイフやフォークを使って食べるのは肩がこるからさ」という御仁は多い。では、あなたは正確に箸を使える自信がありますか、と問い返したいけれど、それは前回詳しく書いた。

極論すれば、ナイフ・フォークは箸よりずっと簡単だし使い方も単純。難しく考えすぎである。

まずナイフは、切るためだけに用いる道具と位置づけ、ナイフを使ってもうまく切り分けられない料理は、堂々と手で食べればよい。気の効いた店なら、フィンガーボールやおしぼりをサッと提供してくれる。

そして、固いものを切る以外は全て、利き腕に持ったフォークを使う。昨今の欧米人を見ていると、ナイフを使うまでもない柔らかい肉(たとえばハンバーグなど)は、フォークをタテに使って切り分けているし、皿に残った切れ端もフォークだけで上手にすくって食べている。

そんなシーンを鑑みても、ほとんどの料理はフォーク1本で事足りる。つまり、お箸の持ち方を練習する前の幼児期の食事と同様だと考えればわかりやすい。また、フォークを櫛型で水切りも容易にできるスプーンと思い込むことで、フォークの背側に食べ物を載せるといった愚行もあえて犯すことはないだろう。

では、フォークをどのように巧みに使いこなすか。そこは少しコツがいる。

フォークで料理を口に運ぶ際は、口に対して平行ではなく、できるだけ垂直になるよう手首を返して使います。

これは、最初のセッティング状態を思い出せば容易に理解していただけるはず。箸は食べる人と平行に並べて置くが、ナイフ・フォークはタテにセットする。つまりタテにして使ってね、というメッセージなのである。

実践してみると分かるが、身のこなしがとても優雅に映り、加えて食べる際あまり大きな口を開かなくてもいいし、開いた口を正面の相手から隠すという利点もある(これはぜひ女性にも憶えておいてほしい)。

最後に、すでに誰もが知っているサインだが、食べ終わったらナイフ・フォークを4時20分の位置へ揃えることを忘れずに。ただ、どうしてこれが終了の意思表示なのだろうか。それは、サービス側がお皿をさげやすいからにほかならない(実際にやってみるとよく分かる)。つまり西洋料理におけるマナーの真髄は、茶道の作法から派生した日本料理のルーツとは違い、レストラン側に敬意を払う行為が基準となっている。この点に着目すれば、おのずと全貌も理解しやすくなるはずだ。

伊藤章良
本業はイベントプロデューサーだが、3年間にわたって書き続けた総合サイトAll Aboutの 「大人の食べ歩き」では、スジの通ったレストランガイドの書き手として人気に。

本記事は雑誌料理王国第151号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第151号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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