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世界のトップシェフに聞く食の未来!ダン・バーバーさん


農作物と家畜とシェフが共存する。これこそが、私が考える料理人にとっての理想の環境。

ダン・バーバーは持続可能なサスティナブル農業の提唱者として注目され、「Form to Table」ファーム トゥー テーブル(畑から食卓へ)を実践するアメリカ人シェフである。その活動が認められ、2009年には「TIME」誌が選ぶ、「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた。

アメリカ東部・マサチューセッツ州、バーリントンにある138エーカーのブルー・ヒル・ファーム。ここはダン・バーバーと弟のデイヴィッドが祖母から引き継いだ農場で、ニューヨークにあるレストラン「ブルー・ヒル」の原点でもある。

2004年にダンは兄のデイヴィッドとともにファームを再建するため、地元の農民を集め、農薬や化学肥料に頼らない、持続可能なサスティナブル農業をスタートさせた。このファームで生産したオーガニック野菜や、牧草で育ったグラスフェッドの牛肉、搾りたてのフレッシュなミルクは、75マイルほど離れたニューヨークのレストランに供給され、ナチュラルかつパワフルなメニューで人々の人気を博す。

また、バーバー兄弟はこのほか、マンハッタンから車で45分ほど離れたウエストチェスターで、非営利機関「ストーン・バーンズ・センター」を経営する。センターではサスティナブル農業によって家畜や野菜が育てられているだけでなく、子供や若いファーマーたちへの教育プログラムも企画するなど、体験型ファームとして注目を集めている。

「ストーン・バーンズ・センター」は、壮大な大自然に見守られたニュヨーク州ハドソン渓谷に位置する。ファーム内には「ブルー・ヒル・カフェ」 やレストラン「ブルー・ヒル」 があり、週末はファーマーズマーケットが立ち、観光客にも人気。

日本人の合鴨農家、古野隆雄氏の著書で人生が変わった

 そんなダンに、サスティナブル農業に興味を持ったきっかけを尋ねてみたところ、意外な答えが返ってきた。「15年以上前のことですが、フルノさんという日本人の農家の方が書いた『Power of Duck』(パワー・オブ・ダック)を読んだのがきっかけです。この本は農業書ですが、私が知る限り、料理書の中でもっとも素晴らしい本とも言えます。彼は米を育てるために、ある日、化学肥料を使用することを一切やめて、その代わりに田んぼに合鴨を何百羽も放し循環型農業を始めたのです。彼の農業は、じつにファンタスティック。私はフルノさんの思想から、ほんとうに大きな影響を受けました」

 この「フルノさん」とは、福岡で合鴨農業を行い、世界各国に循環型農業を広めた古野隆雄さんのこと。その後、ダンはこの古野さんの思想を手本にしながら、祖母から受け継いだ畑でサスティナブル農業をスタートさせることになったのだ。「私たちは化学肥料を使うことなく、家畜の堆肥を使って野菜を育てています。動物はレストランから出た端野菜を食べます。そしてその糞を使って堆肥を作り、野菜の肥料に使う。このローテーションを組むのは非常に複雑で難しいことですが、エコロジカルで、しかも土にエネルギーを与えることになる。つまり、おいしい作物ができることがいちばんのメリットになっているのです。

 ストーン・バーンズ・センターにあるレストラン「ブルー・ヒル」には決まったメニューがない。野菜をいつ収穫するのか、動物をいつ屠畜するのかはファーマーが決めているため、シェフは届いた食材でその日の「おまかせメニュー」を組み立てる。

「使う食材は日によっても違いますし、テーブルによっても変わります。なぜなら1頭の豚のどの部位をその時使うかによって、ポークチャップにするのか、グリルにするのか、テーブルによって調理法も変わってくるのです」

 ダンの話によると、アメリカにはたくさんのサスティナブルファームがあるようだが、農作物と家畜とシェフが同じ土地で共存することは、実はそんなに多くはないという。「でもこれは料理人にとって理想のスタイルでしょう」と静かに微笑む。

では彼が考えるグッドシェフの条件とは何か?
「やはりパッションを持つこと。パッションなくしては、自然を相手にする難しい仕事はできないからです」

Dan Barber
ダン・バーバー
1969年アメリカ・ニューヨーク生まれ。2000年、弟夫妻とともにサスティナブル・フードを取り入れたレストラン「ブルー・ヒル」をニューヨークにオープン。ブルー・ヒル・ファーム、ストーン・バーンズ・センターのふたつの農場を経営し、持続可能な循環型農業や食育を推進。ハーバード・メディカルスクールのアドバイザーを務める。

ダン・バーバーをサスティナブルの道へ導いた古野隆雄さんとは
古野隆雄さんは福岡県生まれ。九州大学農学部卒業後、大学院に進み中退。有吉佐和子の『複合汚染』に影響を受け、 1978年より完全無農薬有機農業を始めた。88年より3年間、野犬と戦いながら合鴨農法の研究を続け、90年に水稲の除草を合鴨で行いながら合鴨を育てる「合鴨水稲同時作」 の技術を体系化することに成功。この技術がアジアを中心に世界各国へ広がる。2000年にはスイスのシュワブ財団より「 世界で最も傑作した社会起業家」 のひとりに選出される。古野農場では35年間化学肥料も農薬も除草剤も使わず、自家製の堆肥と発酵有機肥料を使用して、合鴨米のほかに年間約100種類の季節の野菜や果物を作る。「循環型農業というアジアの暮らしの原点」 を守っていきたい、と古野さんは考えている。


沖村かなみ=文 岡本寿、富貴塚悠太=写真 

本記事は雑誌料理王国第220号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第220号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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