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レストランの新しいカタチ!re:Dine GINZA(リダイン ギンザ)


近年、よく耳にするようになった「コワーキング」。起業家や個人事業主などが、ビジネスに使う設備を共有しつつも独立した仕事を行うワーキングスタイルだ。それを支えるのがコワーキング環境を提供する「コワーキングスペース」で、現在は世界中に広まっている。それを、「日本初のシェア型レストラン」の厨房という形で飲食の世界へ持ち込み、注目を集めているのが「リダイン ギンザ」である。プロジェクトを企画した米山健一郎さんに話を聞いた。

株式会社favy 米山健一郎さん Kenichiro Yoneyama
1974年生まれ、新潟県出身。高校卒業後、飲食の道へと進む。21歳で上京し、洋食やイタリア料理の料理人として研鑽を積んだのち、単身イタリアへ渡る。現地の飲食ビジネスに触れ、帰国後は飲食店の立ち上げや、大手飲食チェーンのメニュー開発に10年以上従事する。2015年、高梨巧氏らと「株式会社favy」を設立し、現在に至る。

飲食業界における課題を掘り下げて辿り着いた形

 今年1月、銀座にオープンし注目を集めているレストランがある。それが「リダインギンザ」だ。「シェア型レストラン」という、あまり聞き慣れない業態の店には、ひとつの店でありながら、6人のシェフがいる。基本的に、ひとつの店にひとりであるべきシェフが複数いることは、今までの飲食業界の常識からは考えられないことだ。しかも、客が気に入ったシェフへ投票することができ、そのランキングがシェフの独立支援につながるという、ある種のエンターテインメント性も持ち合わせている。

 さらに、このレストランには「シェフのためのコワーキングスペース」という側面がある。一般的なコワーキングスペースで、独立した事業者がフロアや設備を共有して働いているのと同様に、料理人がキッチン設備やスタッフ、客席を共有して働いているのだ。これは、日本の飲食業界における働き方の常識を打ち破った、初の試みといえるのではないだろうか。

「リダインギンザ」を立ち上げ、運営しているのは、食マーケティングの総合企業「株式会社favy」。食に特化したオウンドメディアやプラットフォーム運営のほか、飲食店経営や転職支援なども行っている。同社の取締役、米山健一郎さんが「シェフのためのコワーキングスペース」を作った中心人物だ。

「私自身が、今まで飲食店を経営してきてつねに大きなハードルと思っていたのが、初期費用と経営を続けることの難しさでした。さらに、長時間労働や人手不足など、今の飲食店経営の課題を掘り下げていったら、この形に辿り着いたんです」

 米山さん自身が長く飲食業に携わってきた経験があるからこそ、辿り着いた形なのだろう。

料理人の経験もある米山さん。キッチンに立ち、腕を振るうこともあるという。料理人と経営者、両方の気持ちがわかるからこそ、見えてくることがあると語る。

「一般的な考え方だと、都市部で自分の店を持つには1000万円近い初期費用が必要です。さらに、さまざまな統計から、飲食店はオープンから3年以内に8割が閉店するといわれている。腕に自信がある料理人でも、資金や経営に不安があるために、開業に踏み切れないのが現状です」

 やっとのことで店をオープンしても、資金の返済に追われ、思うように経営ができず破綻する。それは珍しいことではない。

「どこかでこの現状を改善しなければ、このまま飲食業界の未来が変わるタイミングはこないのではないか、という危機感を持ちました」

「リダインギンザ」は、そんな飲食業界の現状を打破すべく、シェフのリスクが少ないチャレンジの場を提供することが、ひとつの目的だったのだという。従来はシェフひとりで抱えなければならなかったものを、複数のシェフが共有することで、負担を減らすことを可能にした。初期費用20万円、月額5万円という低コストで、銀座に店を持つことができるシステムを実現したのだ。

キッチンを区切る形で、個々の作業スペースがある。仕切りはあるものの、お互いの仕事が見える環境で働く。今までにないスタイルといえるだろう。

“プロダクトアウト”から“マーケットイン”へ

 資金の問題が解消できても、店に客が来なければ経営は成り立たない。そこで飲食店経営に必要になってくるのがSNSやインターネットなどを通じた情報の活用だ。

 飲食業には職人気質の、よいものを作れば売れるという“プロダクトアウト”の思考が根強くある。しかし、情報が客の入りを左右する現代では、その思考は大きなリスクを伴う。

「飲食業は今まで、出たとこ勝負でやって、当たったら成功、当たらなければ失敗、を繰り返してきた。でも、発想を変えて、情報に結びつけて始めれば、成功確率は高くなります。たとえば、インターネットで検索数の多いワードにつながるメニューを考えられれば、まずはインターネットにお客さまの入口が作れます。それで集客できれば、店への動線もできる。情報を活用できていない飲食店に、インターネットで情報を入れていこう、というのが、『favy』を作ったもともとの主旨。そこから波及したのが、『リダインギンザ』なんです。シェフが“プロダクトアウト”とは真逆の“マーケットイン”の思考を取り入れ、当てられる業態を自ら作れるようになることを、マーケティングが得意な『favy』と一緒に一歩一歩進めていける。それは、ここで働くからこそできることだと思います」

客席、ドリンクメニューなど、キッチン以外は共通。サービススタッフやバーテンダー、ソムリエは「リダイン」に在籍している「favy」の社員が担う。そのため、シェフは料理やメニュー開発に集中できる。

飲食業界の未来へつながるムーブメントへ

 飲食業界に対して、新しい一手を打った「リダインギンザ」。より生産性の高い飲食店を作るためには、コストカットだけでなく思考の転換が必要であることは、今後、もっとはっきりしてくるだろう。このビジネスモデルに共感を持った人も多く、今年以降は大型商業施設との協議も進んでいるという。ここが新たなムーブメントの前身となり、労働環境の改善、閉店する店舗の減少、さらには飲食業界全体の明るい未来へつながっていくことを期待したい。

「リダイン ギンザ」が行った新しい試みのひとつが、この投票システム。来店したゲストは、会計時に気に入ったシェフへ1票を入れることができる。

働いているシェフに聞いてみた

フットワークを軽くして次の働き方を模索中

実は、「店を持つ」ということにはネガティブなんです。もともと起業は決めていたんですが、どういった形でやるかを悩んでいた時に、SNSで「リダイン ギンザ」のことを知りました。初期費用や運営資金の負担が軽く、自己表現ができる場を持てるのは、とてもありがたいですね。これからの時代、フリーランスという在り方も料理人の生きていく道としては大事かなと思っていて、ここで次の働き方を模索しています。今、各地の生産者やワイナリーなどのさまざまなイベントに参加していて、それはとても学びが多いのですが、自分で店を持ったら、そこまでフットワークを軽くするのも難しいですよね。キッチンもスタッフも共有する形なので、すべてが自分の思うまま、というわけにはいきませんが、それでもここにいるよさのほうが大きいです。


高山仁志さん Hitoshi Takayama  
1976年生まれ、宮城県出身。20歳より料理人として働き始める。27歳で上京、都内の有名店や結婚式場で研鑽を積み、2018年「リダイン ギンザ」内に「BOW」をオープン。

店舗拡大に向けてシミュレーションができる

すでに駒沢に店があるのですが、ゆくゆくは店舗を拡大したいと思っています。土地やお客さまの雰囲気もまったく違う銀座で実験的に営業をするという、個人店ではコストの面で実現できないことをここでやらせてもらえていますね。お客さまも、銀座で知った方が駒沢へ来てくださったり、その逆があったりと、WebやSNSだけではできない広がりに、手応えを感じています。また、広い店舗でのオペレーション方法をシミュレーションしたり、ほかのシェフの仕事を見ていて取り入れたいところを見つけたりと、この環境では学べることがすごく多いです。ほかの店のシェフの仕事を見る機会は、そもそもあり得ないので、共有する部分で気を使うことはあっても、ひとりでやっているより世界が広がります。それが大きなメリットですね。


高島朋晃さん Tomoaki Takashima 
1985年生まれ、大阪府出身。大学在学時の飲食店勤務をきっかけに料理人を志すが、師のすすめで一般企業へ就職。2016年に退職、2017年、東京・駒沢に「パッション」をオープン。

リダイン ギンザ
re:Dine GINZA
東京都中央区銀座4丁目3-1 並木館銀座 9F
050-3628-5009
● 11:30~14:30(14:00LO、月~金)11:30~15:00(14:30LO、土日祝)17:00~23:00(フード 22:00LO、ドリンク 22:30LO)
● 不定休
https://ginza.redine.jp/


澤 由香(本誌編集室)=取材、文 小寺 恵=撮影

本記事は雑誌料理王国第298号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第298号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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