「小学生の頃から父親について、よく魚市場に行きましたね」と懐かしそうに話す土切祥正さん。実家は静岡の寿司店で、自身も若い頃に寿司職人だった経歴を持つ。それだけに、魚の扱いには人一倍、気を使う。
今回「グリル」のテーマに選んだ魚は、築地仕入れの気仙沼産カツオ。カツオは赤身の魚で肉に共通するような旨味を持っている。そこでしっかりと火を入れて焼くよりも、牛ステーキのように中身はレアな状態で、あぶってグリルにするのが最良の調理法と考えた。
また、多少ねかせたほうが旨味の増すタイのような白身魚とは異なり、カツオは鮮度がすぐに落ちやすいため、おろし方にも気を配る。「何度も包丁を入れると生臭さが増すので、必要最低限に包丁を入れて素早くさばきます」と土切さん。血合いを丁寧に取り除いて、身に臭みを残さないのもさばき方のコツだ。溝のついたグリル板で焼くメリットは、カツオの皮や身に適度に焦げ目がついて、その香ばしい味わいが楽しめるところにある。
そして考案されたのが、写真の「カツオのカルパッチョグリビッシュソース」。日本人に馴染み深い「カツオのたたき」だが、ピクルスの酸味が利いたソースや甘味のあるカリフラワーのムースと出会い、フレンチ仕立ての西洋の皿となった。
持ち味の異なる2種類のソースを合わせて、カツオのたたきをフランス料理の皿に構築。グリビッシュソースは、焦がしバターにコルニションのピクルスやケイパー、トマト、卵の黄身を加えた酸味のあるソースで、カツオに爽やかな風味を与える。カリフラワーとジャガイモのピュレに生クリームを加えたムースリーヌは、野菜の旨味とまろやかな甘味を添えた。
<カツオのカルパッチョ>(1人分)
カツオ…約100g/塩、コショウ、オリーブオイル…各適量
<グリビッシュソース>(1人分)
コルニションのピクルス、ケイパ ー…各10g、トマト(湯むき)…1/8個/ゆで卵の黄身…1/4個/バター(無塩)…20g/パセリ、塩、コショウ…各適量
<ムースリーヌ>(20人分)
タマネギ…4個/カリフラワー…2㎏/バター(無塩)…250g/フォン・ド・ヴォライユ…1ℓ/ジャガイモ(メークイン)…4個/生クリーム(脂肪分35%)……カリフラワーのムースリーヌに対して1/3の量
カツオは血合いをきれいに取り除き、縞模様がはっきりとした腹側を筒切りにする。焼く時は、まず鉄串で皮に数カ所穴をあけておき、皮の縮みや膨張を防ぐ。また、皮や身がグリル板にくっつかないようにあらかじめ塩、コショウとともに全体にオリーブオイルを塗っておく。グリル板は強火で熱しておき、まず皮目を下にしてヘラで押さえながら焼く。そして方向を変えて格子状に焼き目をつける。側面は軽く焼き目がつく程度で、火を入れすぎない。スライスした時、身の断面がピンク色になるレアの状態に仕上げる。
土切祥正さん
1976年静岡県生まれ。東京都内の寿司店で修業後、フランス料理人に転向。北海道のオーベルジュ「ヘイゼルグラウスマナー」で働く。広尾「ブラッスリー マノワ」で4年間勤務後、2010年独立。
text : Kanami Okimura /photo : Hisashi Okamoto
本記事は雑誌料理王国2011年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2011年11月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。