6種類の水の使い分け「日本らしい」フランス料理の現在形


その料理の見た目は、とてもシンプルだ。例えば、最初に出てきたのは、秋に近所の農家で収穫された様々な種類のカボチャを、腐らないように転がしながら10〜20度で3ヶ月熟成させて澱粉を糖分に変えた甘いカボチャをピュレにし、近所の牧場からのジャージー牛のミルクとごくわずかの塩を加えて、3Dプリンターで作ったカボチャ型で型抜きしたもの。

「いわき産かぼちゃ」

震災後の2年間、店は開店休業状態で、農家で農作業を手伝うなどする中で実感したのは、「自分は何よりも、ふるさとである福島と、ここの食材が好きなんだ」ということ。そんな自分がやりたいのは、そしてこの土地でやるべきなのは、「味を加えるのではなく、食材の味を引き出す」料理。そう考えた時に、フランスから帰国して、日本の水で、野菜を茹でた時の驚きを思い出した。
「日本の野菜は、もともとフランスと比べて土の中のミネラル分が少ないので、味が薄い。それを軟水で茹でると、さらに味が薄くなってしまう。軟水は味を引っ張る作用があり、野菜の味が水に出てしまうのです」それならば逆に、どんな水を使うかで、素材の内側の微細な味の調整ができるのではないか、と考えたのだ。

前出のカボチャのように、萩シェフのスタイルは、調味料をなるべく加えず、素材の塩分、糖分を最大限に生かして生み出す料理。素材の内側にある味を、どのように表現するか。そのアプローチに、水を使い分けるということは必須だと考えるようになった。

店から海までは車で30分。水揚げして30分後には煮始めるアワビ は、水で煮ただけなのに、ふっくらと柔らかい。煮詰めた茹で汁と地元のカリフラワーとクリーム。砂糖も塩も使わない。

もう一つ、食べ手としての気づきもあった。店で使う良質な水を求めて、近所の山に水を汲みに行っている時に、同じく水汲みにきていた近所の蕎麦屋に、よくまかないを食べに行っていた。でも、ある日味が変わったと感じて聞くと、水を汲みに行かなくなったのだという。こんなにも水で味が変わるのか、という気づきが、水を深く知り、使い分けたいと考えるきっかけにもなった。

次ページ:6種類の水とは?また、その水の使い分け方とは?


SNSでフォローする