京都八坂通りに店を構え、ダイナミックな独創性と細やかな配慮で名を馳せる佐々木浩さんは、野菜にこだわる料理人としても知られる。「同じ大根でも11月と1月では味が違います。『塩を欲しがってるな』と感じたら、野菜の声を聞くんです」
食材への真摯な姿勢を崩さない。「僕のこだわりというより、京都がすごいだけ」と佐々木さんは言う。「京都の北部は実、南部は根の野菜にいいものが多い。地下水に恵まれた地だからこそ、北から南までたった12キロメートルの距離なのに、こんなに違う多彩な野菜が採れる。僕はあるがままに使うだけです」
佐々木さんのまな板に上るのは、樋口農園や田鶴農園など、ブランド野菜と呼ばれる野菜とは限らない。京都は"こだわり"の宝庫だから。
野菜使いが巧みな佐々木さん。今回使用した淀大根は、代表的な京野菜である聖護院だいこんのひとつ。肉質がやわらかく水分が多いので煮物に向いている。
たとえば丸大根(聖護院だいこん)はやわらかく味染みがよいので煮物に向く。大きくカットして、ブリのアラのだしで炊き、ひと晩寝かせて佐々木流ブリ大根に。
「今日炊いたもんは明日、ものによっては明後日出す。すき焼きのタマネギみたいなもんで、炊いてるときより翌日の方が旨いんです」
下ゆでした丸大根をざるに空けて、「のどが渇いた状態」にしてやる。野菜と対話しながら、ゆっくり煮含めていくことで美味が生まれる。
佐々木さんの独創性は、豆乳と純ねり胡麻のベシャメル風ソースに、フキノトウ入り玉味噌をのせた、海鮮のグラタン仕立て、に現れた。
豆乳ソースと玉味噌は、どちらも根気よく練ることが肝心。シンプルなだけに技術を要するが、佐々木さんの迷いのない手さばきに、参加者の目は釘付けになった。
海鮮は余計な香りを付けないように太白胡麻油で炒め、百合根とキクラゲで食感にリズムを付ける。普段から愛用しているというだけあり、和食における油の使い方も絶妙だ。「日本食の基本は米と大豆。それなのに今、稲穂が実り、川が流れる日本の原風景が消えつつある。農業は改革の時を迎えていますが、我々は農家を救うために、例えば適正価格で購入する努力をしなくては」
調理の手を休めることなく、畑に対する思いを語る佐々木さん。「楽しい会ですねえ」と、話しながら、示唆に満ちた2品を完成させた。
ブリ、ホタテ、エビ
冬が旬のブリをはじめ、魚介類は京都中央市場に店を置く「日ノ丸水産」の品。目利きが選ぶ魚は、新鮮で質がいいため、身だけでなくアラから出るだしも余すことなく使い切る。
純ねり胡麻の原料のゴマは、高温で日照時間が長い、亜熱帯~熱帯気候の国で栽培されている。丁寧に皮をむき、ほどよく焙煎してペースト状にした純ねり胡麻(白)は、繊細でまろやかな味わい。写真/竹本油脂
一緒に炊くと上質なブリの味わいが出きってしまうため、ブリと丸大根を別に煮込むのが佐々木流。アラも身も、霜降りにせず外側だけを香ばしく焼いてから煮る。
昆布とカツオのだしに焼いたブリのアラを入れ、調味料を加えて10分ほど加熱し、ブリのエキスを取る。だしを多めに盛り付けるため、カツオも使用した濃い味わい。
丸大根は下ゆでに使った昆布の味を洗い流さないよう、ざるに上げて蒸気がなくなるまで丘干しに。「のどが渇いている状態」からだしを吸わせ、繊細な肉質を活かす。
ブリのだしを半量ずつ分け、丸大根の方はじっくり、ブリの身は15分ほど炊く。「店では、煮物は最低一晩は寝かせます」。直前に温め直して盛り合わせ、ユズをのせる。
丸大根と鰤のたきもの
食事の終わり近くに出す料理だけに「しっかりと濃い味」に仕上げた。ブリと丸大根を別々に炊くことで双方の味わいを活かしつつ、焼いたアラのだしによってブリの味を存分に主張する。ひと晩寝かせて味の染み込んだ大根は絶品。
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https://cuisine-kingdom.com/gionsasaki/
豆乳グラタン風 あたりごま・ふきのとう味噌を使って
豆乳と純ねり胡麻に葛でとろみをつけた、ベシャメル風のソースが主役。中には百合根、キクラゲ、ホタテとエビを忍ばせた。具とソースは香りを重視した薄味に留め、フキノトウ入りの玉味噌をアクセントにのせる。
玉味噌は加熱しながら40分ほどじっくりと練り続ける。卵黄が急激に凝固しないよう、ごく弱火で根気よく練るのが最大のコツ。
豆乳にたっぷりと加えてコクをアップ
あっさりとした豆乳にコクを与える純ねり胡麻は「たっぷり入れた方が旨いから」と、大さじ2杯ほども投入。あとは弱火でじっくりと練り上げる。
香りや苦味が飛ばないよう、フキノトウは生のまま刻んで味噌に混ぜ込む。豆
乳ソースも、葛は一気に固まるので、弱火で徐々に詰める。
具材は下ゆで・ソテーのみ。上から豆乳ソースを流して200℃で8~10分焼いたグラタンに、仕上げの玉味噌をのせて味を決める。
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1961年奈良県生まれ。滋賀県「臨湖庵」、京都市「割烹ふじ田」などで修業を積む。1997年に「祇園 さゝ木」を開店し、2006年に現在地に移転。2013年に初の支店「祇園 楽味」をオープン。京都でもっとも予約の取れない店のひとつとして知られる。
祇園 さゝ木
GION SASAKI
京都府京都市東山区八坂通
大和大路東入小松町566-27
☎075-551-5000
● 12:00~一斉スタート
18:30~一斉スタート
●日曜、第2月曜、不定休
●コース 昼6000円 夜22000円(税込)
●31席
http://gionsasaki.com/
藤田アキ=取材、文 村川荘兵衛、中蔦仁己=撮影
本記事は雑誌料理王国248号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は248号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。