東京の『今』を発信し続ける 「タイムアウト東京株式会社」代表取締役 伏谷博之さん


1.お客の願望を徹底的に掴める

ひとつは、お客さまが何を求めているかを、しっかり掴むことができる人だと思います。

クアラルンプールに、あるショッピングモールがオープンしたんですが、閑古鳥が鳴いている。ところが、最上階のレストランだけは毎日行列ができる人気店なんです。つまり、〝箱〞が悪いわけじゃない。

そのレストランのオーナーは、事前に何度もクアラルンプールに足を運び、地元の人たちが何を求めているのか、懸命にリサーチをしたようです。開店してからもリニューアルを続けて、地元の顧客に喜ばれるものを提供している。だからこそ、人気店になるんです。「自分の料理はこれなんだ」と押しつけては、お客さまはついてこないと思います。とくに、訪日外国人の数が年々増え続けている今の日本では、より深く相手のニーズが理解できる、柔軟な発想と対応が求められていると思います。いくら台湾の人に親日家が多いといっても、日本人とは文化も嗜好も異なる外国人なのだということは認識しておいたほうがいいです。「自分がつくりたい料理」や「自分が目指す店」のビジョンはしっかり持ちつつ、顧客となる人たちのニーズを聞く耳を持つこと。それが大事な時代だと思います。

かつて「TOWER CAFE」があった場所に、2009年にオープンした「タイムアウトカフェ&ダイナー」。世界中から人と文化が集まるスペースとして、さまざまなイベントも行っている。

2.ゲストの日常にするりと入り込める

魅力のある店とは、と考えると、「そう言えばあの店、1年に何回行くかな」と思うんです。

すごくおいしくて、雰囲気も抜群。自分としても大好きなレストランなんだけれど、値段もそこそこ高いから、そんなに何度も行けるわけではない。ハレの日のレストランだったら絶対にあそこだけれど、1年に数回行けばいいほうかな、というレストランですね。

それももちろん魅力的なレストランなんですが、もっと日常的でカジュアルな店というのが、僕は「魅力的な店」と言えるのではないかと思います。

例えば、中華料理の「太楼 広尾店」は、会社に近いこともあって、週1回は必ず行きます。「豚肉とキャベツの黒胡椒炒めセット」(810円)が大好きで、無性に食べたくなるんです。毎回餃子ご試食券をくれるのも、なんだかちょっと嬉しいんですよね。同じく広尾の「日本料理つくしんぼ」も、そうですね。古い民家を利用した和食の店ですが、あそこの白飯は最高。ついつい足が向いてしまいます。

料理人やシェフが前面に出ている店でなくても、食べ手にとって魅力的な店はたくさんあります。生活者の日常にするりと入り込んで、客の胃袋をがっつりつかまえている店。それが「惹かれる店」だと思います。そういう店を目指す料理人も、いてほしいですよね。

3.どちらかを選ぶのではなく、どちらも選ぶ

「二兎追う者は一兎をも得ず」ということわざがありますが、今の時代は「二兎を追って二兎を得る」のもありではないかと思います。もちろん、それは簡単なことではありません。でも、最初からあきらめることもないと思うんです。

ちなみに、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平さんも、ピッチャーとバッターの二刀流を続けています。両方できれば、ピッチャーとバッター2つのコミュニティに参加することができるし、広くて多様なネットワークを持つことができます。

そういう意味でも、「鮨りんだ」は面白い。味もたたずまいも正統派だけど、なぜか肩肘張らずに料理を楽しむことができるんです。ニューヨークにいた大将は英語もできるので、外国の客にも英語でネタの説明をしています。外国人が常連さんと「イェーイ」とハイタッチをしても、まったく違和感なし。「寿司屋だから、こうでなければいけない」というワクは外して、自分らしいホスピタリティあふれる店にしている。魅力的な店の新法則だと思いますね。

また、ソウダルアさんのような、あえて店舗を持たない料理人というスタイルも広がると思います。

街の魅力を発信するタウン情報誌「タイムアウト」。「タイムアウト東京」は、創刊時から徹底的に「外国人目線」を貫いている。

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