青魚は非常に種類が多く、その味わいも実に多様だ。また、季節によっても脂ののり具合などが大きく変わる。
たとえば、神奈川県の佐島漁港で毎日魚を仕入れる、「ピスカリア」の出雲択逸さんによれば、同じイワシの中でも、カタクチイワシは脂ののり具合という点では、個体差による変化がない。ところが、マイワシの場合は、均一ではないため、カタクチイワシはカルパッチョなどのいわば「刺身」で食べる料理に、マイワシはつみれ状にしたり、パスタの具材として使う。また、マイワシは季節によっても脂ののり方が異なる。一般的には、10月の産卵期の前がよく太っており、価格も高い。シチリア料理に使う場合は、調理の際にオリーブオイルを合わせることが多いので、むしろ多少脂の落ちた時期でもおいしく食べられるし、価格も手ごろだ。そして佐島漁港に近い「ピスカリア」の〝地の利〞をもっともアピールできるのが、ウルメイワシだ。繊細で鮮度が落ちやすいので、都心部の店ではなかなか生では提供できない魚なのである。
一方、味わいの点でいえば、「新鮮なブリは味わいに輪郭と透明感がありますよね」と、語るのは「魚のほね」の櫻庭基成さん。青魚は新鮮なうちほど臭みがなく、それぞれの旨味、食感、香りが明確に出る。
今回、調理に使ったのは鮮度のよい佐渡産のブリで、他産地と比べると味わいが比較的さっぱりとしている。そのため、醤油などの濃い味わいの調味料を使わず、塩のみのシンプルな味つけに徹して、ブリの上品な味わいを際立たせている。ポイントは塩蔵ワカメで蒸し焼きにし、加熱とともにゆっくりと塩味を入れていったこと。脂の多い部分とそうでない部分とで、塩の入り方と火の入り方が異なる。あっさりしてやや歯応えのある部分と、脂のコクとクリーミーさを感じる部分が同居し、飽きることがない。このユニークな調理法は櫻庭さんのオリジナルだが、ブリの味わいの奥深さを余すところなく表現できる方法といえるだろう。
青魚には比較的香りの強いハーブや、トマト、ケイパーなどの酸味を合わせると味わいが引き立つ。ハーブではドライのオレガノや写真のフェンネルなどもよい相性。フェンネルは香りのしっかり出る株の部分も使っている。ちなみに、出雲さんによれば、白身魚に合うハーブはバジルやローズマリーなどだ。
材料(1人分)
マイワシ(中)…2尾
パスタ(カサレッチェ)…70g
ニンニク(みじん切り)…1/2個分
トマトペースト…15㎖
アンチョビ…適量
フェンネル(葉と株)…10g
レーズン…5粒
アーモンド(皮付きのみじん切り)…5g
オリーブオイル…適量 塩…適量
フェンネル(葉・飾り用)…適量
モリーカ…適量
作り方
青魚も味わいの強いものや弱いものがある。比較的上品な味わいの鮮度のよいブリは、塩だけでシンプルに味つけすると脂の旨さと香りが引き立ってくる。塩蔵ワカメでグルグル巻いて炭火の蒸し焼きにすると、塩がゆっくりと身にしみ込み、場所によって火の入り具合が異なるので、多彩な味わいと食感が出る。
材料(3人分)
ブリ(佐渡産)…300g
塩蔵ワカメ…250g
ユズ…2個
作り方
text by Yukako Ito photographs by Haruko Amagata
本記事は雑誌料理王国第186号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第186号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。