“ごまで繋がる持続可能な島”を目指し、かどや製油が創業地・小豆島で取り組む「ごまのみらいプロジェクト」 25年2月号


かどや製油株式会社が香川県・小豆島で地元生産者や行政と共に立ち上げた「小豆島ごまのみらいプロジェクト」。島の未来のために一歩を踏み出した同プロジェクトに賛同した帝国ホテル 東京料理長の杉本 雄シェフが当地を訪れ、国産ゴマの現状と未来に繋がる可能性を考える。

小豆島の行政・生産者・企業が一つになって同じゴールを目指す

ごま油の製造・販売で知られるかどや製油株式会社は、香川県の小豆島で生まれた。安政5年(1858)にゴマや菜種の搾油所としてスタートして以来、創業から160余年を誇る企業だ。地元の郷土食「小豆島そうめん」の製造に使われる油脂としてごま油の需要が拡大し、第二次世界大戦を経て生き残った数少ない製油会社として、現在も島での製造を続けている。しかし、日本で消費されるゴマの9割以上が海外からの輸入品であり、ごま油の原料も同様だという。そんな状況も踏まえ、従業員のほどんどを島内出身者が占める同社では、過疎化や休耕地の増加といった島の課題解決のために貢献できる方法を探っていた。2年前からごま油やゴマ製品を接点として、工場がある土庄町で開催されるイベントへの参加といった小さな活動を続けてきたが、「コミュニティと一緒に何かできたら」との思いが一つの形になったのが、2023年からスタートした「小豆島ごまのみらいプロジェクト」だ。

かどや製油株式会社でコーポレートブランディングを担当する安田美佐子さんは「目指すゴールはゴマを通した島の活性化。行政の方と思いが一致したのがきっかけで生まれたのがこのプロジェクトです。国産ゴマを復活させて小豆島を盛り上げ、長期的に続けていけるようマネタイズも考えなければ。ポジティブなアクションとして何ができるのか、地域の皆さんと協力して見つけていきたい」と語る。

小豆島土庄(とのしょう)町の高台にある畑で、収穫間近の国産ゴマを初めて手に取り、生産者の濱中さんに質問を重ねる杉本シェフ。

昨年、試験的に伊喜未地区にある20aの休耕地でゴマの栽培を開始。栽培は同地区の農業集団「陽当の里」に依頼し、地元小学校での食育の授業と併せ、ゴマを用いた給食を提供する取り組みを実施した。このプロジェクトの構成メンバーには土庄町、生産者、地元企業としてのかどや製油が名を連ねる。これらの取り組みに賛同したのが、自社内外で早くからサステナブルな取り組みを実践してきた帝国ホテル 東京の料理長・杉本雄シェフだ。
「サステナブルな観点で繋がりながら、企業と企業がお互いの利益を追求することは、一番いい形だと思っています。かつての大量生産・大量消費の時代は企業が競争していた状態。でも今は共に創る“共創”の時代です。自社のビジネスがしっかり成り立つ形で協力し合い、地域・経済・社会を共に創り上げていくことが、取り組みを一過性で終わらせないためにも重要です。小豆島のプロジェクトは行政や団体、企業がお互いの課題解決のためにパートナーシップを組んで結びついている。そこが素晴らしいと思いました」

ゴマは一年生草本で、成長すると茎の高さは約1mになる。花が落ちるとサクと呼ばれる実がなり、その内部にゴマが詰まっている。収穫時は茎ごと刈って約10日間乾燥させた後、叩いて実を落とし、選別、水洗い、天日干しを経て唐箕(とうみ)と呼ばれる選別機にかけ、重さで選別。さらに手作業で雑物を取り除き、煎って完成、となる。

杉本シェフは9月に小豆島を訪れ、かどや製油の工場でごま油の製造工程を視察。その足で、瀬戸内海を見下ろす高台にあるゴマ畑へ向かうと、収穫を今か今かと首を長くして待っているかのように、1mを軽く超える高さまで成長したゴマがシェフを迎えた。ゴマを育てている「陽当の里」の濱中紀仁会長と前田満照さんが、昔ながらの収穫作業とその後の選別方法などを、実演を交えながら解説。日頃から食材を大切に使うよう心がけている杉本シェフは熱心に耳を傾けていた。

地元の方たちとのディスカッションにて振る舞われた小豆島そうめん。
高松港から小豆島へ向かうフェリーの船窓からは、かどや製油株式会社の工場がよく見える。
かどや製油ではゴマの焙煎には二重ガマ構造の焙煎機を用いており、焙煎の強弱によってゴマ油の色や香りに違いがでる。

帝国ホテル 東京・杉本料理長が提案する国産ゴマの魅力を生かしたフランス料理

3つのアプローチでゴマ×食材の一体感を追求

小豆島の視察を終えて、持ち帰ったインスピレーションを三品の料理に落とし込んだ杉本シェフ。いずれにも小豆島で収穫されたゴマと、かどや製油の新商品である「ごまの実オイル」が使われている。

2023年12月に発売したかどや製油の新商品「ごまの実オイル」は、ゴマの種皮を除き、実だけを穏やかに煎り低温圧搾したピュアオイル。ナッツのように香ばしい風味が特徴。

「ゴマをメイン食材としながら、それぞれの料理でゴマの使い方や引き立たせ方を変えようと思いました」と説明する杉本シェフが最初に披露したのは、バターと卵などの動物性食材を使わずにゴマの風味を生かして作られたビスキュイ。沖縄のちんすこうのように黒糖を使い、食感も似ていることから「ごますこう」と名付けられた。ローストで生まれるゴマの香りと味を引き立たせるために、どのくらいの量のゴマを使うか? を追求してレシピを作り込んだという。

「かどや製油さんのカフェ『goma to(ゴマト)』のメニューからヒントを得ています。ゴマが引き立つように工夫したヘルシーなものが多かったので、一品は植物性の食材のみで作りました。さらに粉末状のゴマと米糠を使うことで、小麦粉の使用量を抑えています」

ごますこう
国産ゴマを引き立たせるため、バターと卵を使わず、小麦粉もごく少量にとどめたヴィーガンのビスキュイ。国産ゴマは粒の状態とミルミキサーで細かなパウダー状にしたものを使い、米糠、黒糖、ごまの実オイル、塩、繋ぎのための少量の小麦粉と共に練って生地を作る。セルクルに入れて170℃のオーブンで15分ほど焼き、表面にカカオバターとごまの実オイルを塗ってツヤをだし、炒りゴマをトッピング。帝国ホテルオリジナルのフィナンシェと同様に金箔をあしらい、華やかに仕上げた。

二品目は、驚くほど大きな小豆島産のアボカドとマグロを使ったオープンサンド。
「当初はゴマのペーストを練り込んだフォカッチャを使おうと考えていました。でも、主役であるゴマによりフォーカスし、この形になりました」

本鮪のゴマ香るロースト トースト仕立て
表面に国産ゴマをまぶしてローストしたマグロに、ごまの実オイルとアボカドを合わせたムースをたっぷり加えていただくリュクスなオープンサンド。一口大にカットしたマグロ、3色のトマト、アクセントのケイパー等と共にパンの上に盛り付けた。「小豆島産の大川さんが育てたアボカドと224ワイナリーさんが手がけるスパークリングワイン“島シャン”を合わせることで生まれる一体感を楽しむ一品です」。

その地のテロワールを捉え構成されたレシピ作りをしていき、本当に必要なものだけで創り上げたい、と考えるのが杉本流。
「ゴマに合わせる食材として、優しい表現でゴマを生かせるマグロを選びました」

表面にゴマをまぶし、ごまの実オイルで繊細に火を入れる。そうしてゴマの香りをまとわせたマグロには、同じくごまの実オイルを混ぜ込んだアボカドのムースを合わせ、一体感のある仕上がりを目指した。

丸太状にカットして塩のみをふったマグロの表面全体に国産ゴマを付ける。
フライパンの上で転がしながら、ごまの実オイルを使って軽く火を入れる。

最後に登場したのは、手のひら大の肉厚なシイタケを使った一品。
「鶏とシイタケとゴマのみという、とてもシンプルな材料で作りました。この三つの食材を余すことなく使い、目を閉じて食べても何を食べているのか分かるような料理にしたいので、この形になりました」

金ごま/椎茸「黒煌」
杉本シェフが得意とする、食材を絞り込んでそれぞれの良さを最大限に引き出すことを追求した料理。食材の色とローストした時の香りが近いことから、ゴマとシイタケの組み合わせを選択。秋田県白神山地の湧水で育ったシイタケ「黒煌(こっこう)」に国産ゴマと鶏のムースを仕込み、鶏ガラでとったブイヨンとごまの実オイルのスープを添えていただく。じっくり火入れして引き出されたシイタケとゴマの香りに、細かく粉砕して使い切る鶏ガラのブイヨンの風味が重なる。
シイタケの傘の表面を平らにスライスし、格子状にナイフを入れて弱火でじっくりロースト。シイタケの内側には、ゴマとカットした傘の部分を細かく刻んで加えた鶏のムースを詰める。
さらにゴマで蓋をして、炒ったゴマの香りをアンフュージョンしている。

杉本シェフは「サステナブルな観点で料理を発信していくと、自ずと不要なものを削ぎ落とした調理法になっていく」と語る。
「生産者の手間暇や思いを知っていればなおさら、無駄を出さずにどうやって食材の持ち味を全て生かした調理法にするかを考えます。それが結果的に食品ロスの削減に繋がり、余計なものを買わないなど、サステナブルな行動にも繋がっていくと思います」

杉本  雄(すぎもと ゆう
1980年、千葉県生まれ。99年に帝国ホテル入社、2004年に渡仏。ヤニック・アレノ氏、アラン・デュカス氏のもとで「ホテル・ル・ムーリス」のシェフを務め、「レストラン レスペランス」「レストラン スクエア」で総料理長を歴任。17年に帝国ホテルに再入社、19年より帝国ホテル 東京の料理長を務める。

「ごまのみらい小豆島プロジェクト」
かどや製油が、創業地であり現在も工場を構える香川県・小豆島土庄町で2023年から始めた地域創生プロジェクト。“ごまで繋がる持続可能な島”を掲げ、雇用創出・休耕地の活用といった社会課題解決を目指す。町内の休耕地を活用し、ゴマを栽培。栽培委託先「小豆島 陽当の里 伊喜末」と連携し、種まきや収穫体験はもちろん、ゴマを活用した給食提供などの食育活動も進めている。

かどや製油
https://www.kadoya.com

text: Hanayo Tanaka  photo: Tomoko Osada


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