「初めて郫県に行ったのは27歳の時かな。現地の豆板醤の味に感動して、うちの店でもぜひ使いたいと思ったんです」。でも当時はまだ日中間の食材輸入のルートが不安定。日本で一定量の豆板醤を継続して入手できるようになったのはそれから5年以上先のこと。その豆板醤を使い、「自分のおいしいと思う味と本場の味の、いいとこ取りの麻婆豆腐を作り上げました」という。
豆板醤と一味唐辛子をニンニクとともに炒めて香りを出した後、炒めておいた豚ひき肉を入れてさらに加熱。スープを加えてから下ゆでした豆腐を投入。軽く煮て全体をなじませながら醤油や豆豉で味付けし、葉ニンニクを入れて片栗粉でとろみをつける。山椒、特製ラー油で仕上げる。
四川飯店は今、陳さんの息子の建太郎さんが店を率いている。「建太郎は四川で2年半修業している。僕よりずっと四川料理の真髄を知っているよ」と、陳さん。ならば、建太郎さんが今後、麻婆豆腐を自分流に変えることはあり得るか――と問うと、「この麻婆豆腐は変えてはいけない料理」と即答。
「お客さまは『四川飯店に来ればこの味がある』と安心してくださっているからね。そういう料理は大事にしなくちゃ」。
そんな盤石な料理こそが、店のスペシャリテとして生き続けるのだ。
陳建一/1956年東京都出身。
日本における「四川料理の父」、「四川料理の神様」と呼ばれた父、陳建民さんの長男として生まれる。大学卒業後、「四川飯店」で、本格的な四川料理の修業を開始。1990年に店を引き継ぐ。以降、四川飯店グループを率いるとともに雑誌やテレビなどのメディアで活躍し、料理教室の講師も多数務める。著書多数。現在は息子の建太郎氏に経営を継がせつつ、引き続き四川料理の普及や後進の育成に取り組む。
東京都千代田区平河町2-5-5
全国旅館会館5F・6F
TEL 03-3263-9371
11:30~15:00(14:00LO)
17:00~22:00(21:00LO)
月休
text: Izumi Shibata photo: Yoshiko Yoda
本記事は雑誌料理王国319号(2021年12号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は319号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。