読みづらいメニューにムラのある接客――。文字だけ見ると、「けしからん」こともなぜあの店では唯一無二の魅力になるのか?そこにはサービスの本質に迫る秘密があった!タブーから読み解く、惹かれる店の新法則。
東京・小川町の「みますや」は、入り口のすぐ先に予約が取れない当日席がある。夕方5時になると次々と客が現れて、その席を埋めていく。
今や人気店は予約が前提で、数カ月前からの席を楽しみにする客もいる。そういう客が大事にされるのはわかる。だが「みますや」は、関東大震災の時に「俺らの酒を飲む場所がなくなる」と近所の常連客がこぞって水をかけに集まったような店だ。予約もせずに、ふらりやってくる常連客に支えられてきた歴史からか、どれだけ店が賑わう時期でも、当日席は空けてある。
客は、揺らぐことのない、確かなものにも惹かれる。店の名物だったり、建物の佇まい。店主の人柄あたりはよく言われることではあるが、こうしたものは物質的というか、ある種のハードウェアである。
それらを守り続けることはもちろん大変だが、それ以上にしんどいのはソフトウェアのほうだ。常連客のために当日席をつくったり、季節ごとにお勧めのメニューを更新し続けたり……。それはスタンスやルールなどと呼ばれることもある。しかし、個人的にはそこに、「こころざし」とルビをふりたい。
「みますや」が、東京最古の居酒屋として残った理由のひとつは、スタンス(こころざし)を明確に貫き続けてきたからではないか。
昔からの名物や、建物の風情はもちろんだが、常連客をおもんばかった営業姿勢そのものが、人を誘う呼び水となり続けたのだ。
今も、地元民の支持を受ける東京最古の居酒屋。馬刺しなどの名物はもちろん、昼の営業や当日席のシステムなど、志あ る店のあり方に惹かれるファンは多い。
みますや
東京都千代田区神田司町2-15-2
03-3294-5433
● 11:30~13:30、17:00~22:20LO
● 料理は450円~
● 日・祝休
● 130席
text by 鳥越達也
Tatsuya Torigoe
年間300軒の暖簾をくぐる酒場ライター。仕事柄、二度行く店はそうないが、今回は8軒を厳選した。魅力的な品書きを見ていると目がうつろになるが、幸せ。
本記事は雑誌料理王国第289号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第289号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。