人間が肉を食べるようになったのは250万年前だ。肉食をきっかけに脳は3倍にも発達した。脳の重さは体重のわずか2パーセントに過ぎないが、摂取カロリーの24パーセントを必要とし、食欲やおいしさを司る。「脳が『もっと食べたい』という摂食欲を感じ、発信した時、それが『おいしい』という感情表現に置き換えられるのです」と、肇さんの説明は始まった。
この時、脳からはドーパミンという神経伝達物質が分泌される。「だから、肉を調理する際には、フライパンかオーブンかといった議論より、いかにしてドーパミンが出るような料理を作るかということのほうが大切なのです」
肇さんによれば、ドーパミンが出る条件はふたつ。食べ手がその料理
に対して「生存に不可欠」で、「意外性に富んでいる」と認識することだ。
「食べることが生存につながっているのは当たり前ですから、われわれが腕を振るうべきは『意外性』でしょう。たとえば赤身肉なのにすごくやわらかかったり、生肉に見えて実はアツアツだったり。ゲストの経験を超える料理で驚かせてあげるんです」
「肉の温度は、刻々と変化していて、それは火にかけた時に限りません。
緻密な仕事をするためには、焼きも含めたすべての変化を『温度変化』や『環境変化』ととらえてコントロールすることが重要だと思います」。 「食」が生存だけでなく、意外性の感知にもつながっているという脳の神秘。肇さんの料理が芸術性でも高く評価されるのは、美しさや味への探求だけでなく、人間の根源へのアプローチを続けているからだ。料理の本質を誰よりも深く理解しようとしている料理人が、ここにいる。
HAJIME
ハジメ
大阪市西区江戸堀1-9-11 アイプラス江戸堀1F
06-6447-6688
● 17:30~20:30(入店)
● 不定休
● コース 21600円~
● 24席
www.hajime-artistes.com