「八幡平バイオレット」×「月曜シェフ塾」フランス料理技術講習会で、岩手の希少な在来品種ニンニクを知る


若手料理人を対象にした料理技術塾セミナー「月曜シェフ塾」。「薫り高く記憶に残る前菜、魚介料理を学ぼう!」の会では、岩手県の在来品種「八幡平バイオレット」をピックアップ食材に行われました。熱気に包まれたその日の様子をレポートします。

今回のピックアップ食材
八幡平バイオレット
夏でも暖房が必要になるほどの寒さに見舞われる八幡平で、力強く育てられてきた「八幡平バイオレット」。岩手県内で唯一の在来種のニンニクで、ニンニク農家の遠藤さんの手によって大事に守られてきた至高の品種です。2017年に八幡平市が種苗登録。球重平均が120gと一般的な品種よりも2割ほど重く、名前のとおり、美しい紫色の外皮が特徴です。
10月に種まきが行われ、厳しい冬を乗り越えて雪が解けた春先に芽が出てきます。豊かな香り、深い味わいが楽しめるのは、自然の中に長くいるからです。収穫は7月。3週間ほど乾燥し、8月中旬から出荷が始まります。
長い間、知る人ぞ知る希少なニンニクでしたが、栽培農家が増え、県外にも流通されるようになりました。中でも「すばるファーム」のものはオーガニックで栽培され、より「八幡平バイオレット」らしさがわかると好評です。

レストラン・ホテル業界の販売促進を目指す「ソトワールクラブ」が、若手料理人を対象にした料理技術塾セミナーを開催しており、それが「月曜シェフ塾」。プロの料理人、主にフレンチ、イタリアンレストラン、ホテル勤務者、将来シェフをめざす方から既にシェフを対象に、試食を交えて、調理技法を勉強する料理講習の機会です。

10月7日(月)では、「薫り高く記憶に残る前菜、魚介料理を学ぼう!」をテーマに、「La Rochelle」料理長の川島孝シェフを講師に迎えて行われました。
今回のピックアップ素材は、岩手県の在来品種「八幡平バイオレット」。紫色の外皮、やわらかい旨みとエレガントな風味が特徴です。

会場となったのは、東京・麻布台にある厨房機器メーカーの「エフ・エム・アイ」のテストキッチン。
日本のフランス料理界の第一線で長年活躍されている川島シェフの技術や知識を間近に学べるとあって、料理人はもとより、将来の料理界を担う学生ら50人もの人が集まり、熱気に包まれた時間となりました。

「八幡平バイオレット」をフランス料理にどう使う?

この日の料理は3品。
「和梨のヴィシソワーズ 絹鱒の瞬間燻製」
「グルヌイユのハーブフリット バイオレットにんにくの香り」
「カマスのサンドイッチ仕立て ソースアルベール」

最初に披露されたのは、「和梨のヴィシソワーズ 絹鱒の瞬間燻製」。
絹鱒(シルクサーモン)を桜チップ燻製にし、「La Rochelle」で初夏に提供しているという、男爵を使ったまろやかなヴィシソワーズに和梨がみずみずしさを与える「和梨のヴィシソワーズ」と合わせて。
「八幡平バイオレット」が使われるのは、お皿にさわやかなひねりを与えるピストゥソースで。フヌイユ(ディル)、オリーブオイル、松の実、パルミジャーノレッジャーノを主原料に、「八幡平バイオレット」で作ります。料理全体のエレガンスさを損なわず、それでいて、余韻にふくよかな旨みが残るソースは陰の立役者。印象に残る一皿となりました。

2皿目の「グルヌイユのハーブフリット バイオレットにんにくの香り」は、いかにもフランスらしい食材、グルヌイユ(カエルの後ろ脚)を、フリットとソテー、2つの調理法で。
フランス料理の食材や技法は遵守しながら、フリットのアパレイユにあおさのりを入れたり、揚げ油は太白胡麻油だったり。和の要素も取り入れ、柔軟で、素直においしい、でもそこはトップシェフならではの深い味わいのある料理に昇華。
料理名に「バイオレットにんにくの香り」とあるように、「八幡平バイオレット」はレモングラスとピペラードのコンディモン、クレーム・ド・アイユ、とまさにニンニクが活躍する調味料で使用。コンディモンでは、スライスして炒めて、クレーム・ド・アイユでは茹でこぼして使います。

「『八幡平バイオレット』はやさしい香りがいいですね。みずみずしく実がつまっていて、ニンニク本来の旨みがあります」と川島シェフ。そのために、塩も最小限に留められると言います。
仕上げにニンニクチップも飾り、「八幡平バイオレット」を堪能できる一品でした。

最後に登場したのは、「カマスのサンドイッチ仕立て ソースアルベール」。
カマス、レギュームのムース、雲丹のムースを重ね、スチームコンベクションオーブンに入れた後、焼き色をつけ、ソースアルベール、ベルガモットレモンのコンディモンを添えた一皿です。
フランス料理の真髄であるソース、魚の考え方やある扱い方、添える食材、今回はアールグレイ紅茶の香りを担うベルガモットを使うなど、料理の考え方や食材の選び方、構築の仕方などを余すところなく教えてもらいました。

トップシェフから見た「八幡平バイオレット」の魅力

川島シェフ曰く、「『八幡平バイオレット』は断面にツヤがあり、味わいはみずみずしい。やさしい香りがいいですね。フランス料理のように構成を重ねる料理でも邪魔をしません。それでいて、ふわっと上品な香りが鼻腔に残るので、香味野菜としての役割もしっかり果たしてくれます」。
それが顕著なのが、2皿目の「グルヌイユのハーブフリット バイオレットにんにくの香り」のクレーム・ド・アイユです。ニンニクを茹でこぼしてクリームを作るのですが、このとき、一般的なニンニクだと茹でこぼすこと3回、「八幡平バイオレット」では2回で十分とのこと。せっかくのやわらかな風味が飛んでしまうから、なのがその理由です。同時に、2回で十分に火が通り、結果として時短につながる、とあって、いいこと尽くしです。

3品とも試食を交えながらの講習会、時に笑いを交えながらの川島シェフのわかりやすく丁寧な説明と相まって、フランス料理の技術や歴史、奥深さ、そして、「八幡平バイオレット」の魅力をしっかりと体験できた時間となりました。

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Text:羽根則子, photo:福岡 拓


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