小学校の卒業文集に、「料理人になる」と書いた。
「小さい頃から、自分は料理人になるものだと思っていた。ジャンルはフランス料理。他の職業選択は、考えたこともありませんでしたね」
現在、ホテルオークラ東京の洋食調理総料理長を務める池田順之さんは、高校を卒業すると、1年間、フランス語の勉強をした。その後、働きながら服部栄養専門学校の夜間クラスに通った。
包丁は、料理人にとっていちばん重要な道具。でも、それを学生時代は分かっていない。包丁を使う機会が、それほどないからだ。「だからこそ、私は新入社員には『包丁は一生懸命研いでこい』と言います。まぁ、そう言う私も、切れない
包丁を持って入社した口だけどね」と笑う。気さくでオープンマインド。若い料理人たちにも、積極的に声をかけ、冗談を言う。
「厨房はチームプレイ。コミュニケーションがうまくいかなかったら、お客様に満足していただける料理はつくれません」
そんな池田さんが若い料理人に言うのは、「不得意なことを嫌いになるな」ということだ。「誰でも不得意なものはあります。ただ、その不得意を嫌いになると、それ以上やらなくなってしまいます。
嫌いにならずに少しずつでも努力を重ねれば、苦手なりに得意なことができてくる。それが大事なんです」若い料理人に声をよくかけるのも、それぞれの良さを見つけて、進歩をほめてあげようと思うからだ。
若い頃は、貪欲に、がむしゃらに仕事をした。
「何でも覚えようと思っていたから、そういう私には上司である料理長も、いろいろと教えてくれました」ゼロから「ホテルオークラ東京」に育ててもらった、と池田さん。その恩は絶対に忘れない、と話す。
軽口の合間に、料理に対する真摯な思いがあふれる。トップに上り詰めてなお、総料理長は若い頃同様に、仕事に貪欲だ。
ホテルオークラ東京
Hotel Okura Tokyo
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山内章子=取材、文 大平正美=撮影
本記事は雑誌料理王国277号(2017年9月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は277号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。