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鬼才ピエール・ガニェールのオリジナリティのルール


ガニェールさんのオリジナリティのルール
●バカンスをとる。バカンスは3分でもとることができる
●ピンセットは使わない。繊細に盛り付けるため素手で盛り付ける
●クラシックなテクニックを使い、味そのものにこだわる

2010年、ANAインターコンチネンタルホテル東京に開業した「ピエール・ガニェール」は 今年8年目を迎える。オープン当初から「ミシュラン・ガイド」で二つ星を維持し続ける実力は、「厨房のピカソ」と称賛されるガニェール氏のオリジナリティと、その世界を再現する赤坂洋介シェフの妥協なき仕事の賜物である。現在全世界に13店ある「ピエール・ガニェール」の支店のメニューを、今もガニェール氏は全てチェックする。各店のシェフの中でも、ガニェール氏が全幅の信頼をおくのが東京店の赤坂洋介シェフだ。師匠のエスプリを尊重しながら、ピエール・ガニェールの料理を創造する若手シェフ。師弟それぞれの〝オリジナリティ〟とはどんなものだろう。

常に好奇心を持続させることが オリジナリティにつながる

5月、久し振りにガニェール氏の料理を頂いて、フランス料理の王道を感じた。というのも、前衛的な方向性は控えめになり、一つひとつの完成度が高い。例えば遊びの要素満載のアミューズ・ブーシュでは、スズキとチリメンキャベツのように日本の素材を取り入れたり、カリフラワーのスープにカルダモンの香りを合わせるなど、エキゾチックなスパイス使いは健在だが、全体に穏やかなやさしさに満ちている。

20年近く前、パリの本店で出会った「鰻の照り焼きと牡蠣のコンフィ」 という謎の素材の組み合わせや、6品のうち半分は甘い味付けで、「デザートからスタート?」と驚かされたり、ガニェール氏の溢れる創作意欲にどう対処していいのかわからないこともあった。もちろん、そこが楽しみだったけれど。 ところが今回は、全体に間違いない素材の組みあわせ、味によってフランス料理そのものをしっかりと感じられた。その理由は赤坂シェフの存在、成長が大きいのではないか。

「赤坂シェフは私のスタッフの中でもトップスリーの一人。彼は誠実な人柄で、繊細で緻密な作業を成し遂げる才能がある」と、ガニェール氏。師匠にこれほど信頼された赤坂シェフなら、ガニェール氏の考え方や発想は、簡単に予想できるだろう。「いえ、わかりません。それがガニェールシェフだと思うんです。シェフは常に『何か新しいこと』を探している。ある時、思いもよらない形で料理に活かされている。それは鮮やかなマジックのようです」

ガニェール氏が大好きなタケノコには、アワビと黒毛和牛の脊髄を合わ せ、黒毛和牛のコンソメを注ぐ

「ガニェールのことは忘れろ」
師のひと言で吹っ切れた

日本の素材で、最近のガニェール氏のお気に入りはタケノコだという。バターや海藻と合わせて、フランス料理らしい味付けをプラスしていたが、ある時からコンソメに変化した。タケノコの香りや味わいを活かすには、合わせるものは控える。ただしこの先変化する可能性もある。ガニェール氏の料理は常に変化している。同じ素材でも、その年、その時期によって異なる仕上げになる。
「3年ぐらい前に悩んだことがありました。〝ピエール・ガニェール〟として考えるのか? 自分の料理を追求するのか?でも、シェフからガニェールのことは忘れろ』と言われて迷いがなくなりました」 

そんな赤坂シェフが取り組んでいるのが、和食で使う飾り包丁だ。たとえば、帆立貝に細かく飾り包丁を入れると口当たりがやわらかくなる。「バナナ、オイスターリーフ、フィンガーシトロンを合わせると、まるでカキを食べているよう」この組み合わせは、今回のアミューズに、見事に活かされていた。

「日本の素材とフランス料理をつなぐこと。日仏の融合が自分のオリジナリティだと思います。そこで何か迷った時に手にするのは、オーギュスト・エスコフィエの『ル・ギイド・キュリネール』です」。1903年に発刊されたフランス料理のバイブルだ。19世紀までの料理を体系化し、5000ものレシピを収めている。「そもそも昔のレシピはどうだったのか。そのルーツを確認することで、見えてくるものがあるんです」 ガニェール氏もその意見にはうなずく。「私も古典は大好きだよ」。二人に共通する古典へのリスペクト。だからこそ、ガニェール氏と赤坂シェフは、「フランス料理の原点」を表現することができるのだ。

アイナメのポワレとホワイトアスパラガスの魚料理。

ビーフコンソメで蒸し煮にしたタケノコ。海藻バターで火を入れたアイナメ。岩手県・石黒農場のホロホロ鳥胸肉のローストには、サリエット(シソ科のハーブ)が香る。文字通り日仏のおいしいところを切り取り、みごとに調和させている。「ここ2~3年、赤坂シェフはとても成長している。私からの注文は、もっと休みを取れ、ということぐらい。もっといろいろなものを見たり、 日常を見直す時間も大事だよ」

二人並んで話す様子は親子のようにも見える。互いを思いやり、尊重しあう。最近は、人気店を渡り歩き、あとは独学という修業が増え、じっくり同じ店で経験を積む料理人が少なくなっている。赤坂シェフのように地道に同じ店で学ぶことで、自分の道を定める。オリジナリティを発揮できる好例ではないだろうか。

赤坂さんのオリジナリティのルール
● 毎日15分でもいいから走ったり、何も考えない時間を作る
● 出勤と退社時に必ず、全スタッフと握手し感謝を伝える
● 時間があれば家でもエスコフィエの本を読む

岩手県・石黒農場のホロホロ鳥のローストには、タイム、 パプリカ、ニョッキを合わせた。

text 犬養裕美子 photo 前田宗晃

本記事は雑誌料理王国2018年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2018年7月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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