銀座や丸ノ内が見渡せる絶好のロケーション。「アルゴ」は、アーティスティックで独創的なフランス料理店として注目を集める。総料理長の山下敦司さんは、フランスの三ツ星などで5年間腕を磨いた。まるで絵画のような美しい料理︱。山下さんの作り出す皿は、「厨房のピカソ」と謳われるピエール・ガニェール氏への敬愛から生まれる。
念願のガニェールの店で目にした研ぎ澄まされた感性に驚愕
若い頃に本で見たビーツの真っ赤なソースや、斬新な盛り付け。山下さんは、ガニェール氏の料理に衝撃を受け、「絶対ここで働く」と決意して渡仏した。何度も履歴書を送ったが断られ、ようやく承諾の手紙が来たのは渡仏して4年を経た1999年だった。ガニェール氏が再起をかけてパリに進出し、三ツ星に返り咲いた翌年のことだ。もちろん店は本店のみ。憧れのガニェール氏の仕事を間近で見た山下さんは、その研ぎ澄まされた感性に驚愕した。「ガニェールはお皿をキャンバスに見立てて、『ここじゃない』『違う』と試行しながら素材を置いていく。完成した料理はとにかく綺麗で、いつも感動していました」
当時のガニェール氏はクラシックな調理技法を重んじ、「盛り付けで斬新に」という手法だった。まだソースが主役だったこの時代、彼はソースを皿の縁に少量添える程度。「素材を活かすため、ソースは脇役でいい」という考えだ。野菜を多用し、最初から最後まで料理は軽めに。レタスのソースや水菜、芽キャベツが彼のお気に入りだった。
「今でも野菜のソースはよく使います。何にでも合うし、なんといっても料理が軽く仕上がりますから」
厨房では髪を振り乱し、山下さん曰く「仕事では化け物に変身する」という巨匠ガニェール。熱中する余り、手でソテーすることもあったという。しかし、普段はスタッフ全員に気を配る、優しく温厚な人柄。山下さんは、アルゴを率いるトップとして、料理だけでなくひとりの人間として、ガニェール氏から得たことを活かしていきたいと考えている。
季節感を大切にする山下シェフ渾身のひと品。花やハーブが散りばめられ、まるで春の菜園のよう。中央のつまみ菜の下にマリネした信濃雪鱒とオゴノリが隠れ、人参のゼリーで囲んだ内側にはドレッシングが注がれている。
シナノユキマス…200g/オゴノリ…20g
マリナード
ゆずジュース…70g/レモンの皮…1個分/塩…3g/サラダ油…50g
ドレッシング
ポンジュース…25g/レモン汁…25g/ポン酢…45g/白ワインビネガー…4g/オリーブオイル…70㏄/塩、コショウ…各適量
仕上げ
人参ゼリーのパスタ、つまみ菜、ベビーリーフ、バジルのチュイル、クロケット…各適量
フランス・アピナック生まれ。81年サン・ティティエンヌに「ピエール・ガニェール」オープン。96年に破産により閉店するが、半年後パリに再出店。97年二ツ星、98年三ッ星を奪回した。ロンドン、東京、香港、ドバイなど世界各地にレストランを展開。絵画のように芸術的で個性的な料理から「厨房のピカソ」と称されるガニェールは、ジョエル・ロブションやアラン・デュカスと並ぶ、現代フランス料理を代表するスターシェフだ。
名須川ミサコ=取材、文 富貴塚悠太=撮影
本記事は雑誌料理王国259号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は259号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。