現存する日本最古のワイナリー「まるき葡萄酒」が展開する大阪屈指のグランメゾン「プレスキル」。厨房を預かる佐々木康二シェフは「不易流行(伝統を守りつつ新しいものを生み出す)」を旨とし、多彩なワインと響き合う料理でゲストを迎える。
季節の恵みを生かした繊細な料理と洗練されたもてなしにシェフが修業時代を過ごしたフランス・リヨンのエスプリが香る。
初夏の前菜、「舌平目のショーフロアとグリーンアスパラガス」は、かつて宴席で権力の象徴として作られていた宮廷料理を現代風に再構築したもの。骨から引
いた出汁の中で火入れした舌平目をいったん冷まし、その出汁をベースにしたクリームソースで表面を覆う。従来は「見せる料理」として長時間もたせるため、ゼラチンを加えてがっちりと固めていたものだが、作りたてをすぐに味わってもらうコースのひと皿に昇華させた。舌平目の持つゼラチン質だけで固めているので雑味がなく、低温で火入れすることで魚のしっとりなめらかな食感
が楽しめる。
「魚料理にあえて赤ワインを使うことで組み合わせの醍醐味を感じてもらえたら」とすすめるのは「山椒の香る伝助穴子とフォアグラのパテ マトロートをイメージしたソース」。ぶつ切りにした鰻を豚の耳などと赤ワインソースで煮込む古典料理にヒントを得た。
開いた伝助穴子を魚の出汁と牛のコンソメでふっくらと煮て味を含ませる。さらに皮目を炙って香ばしさをプラス。ほうれん草のソテー、魚のすり身のムース、穴子、フォアグラを重ねてパイに包んで焼く。上の生地はフィユタージュ(折
り込みパイ)、下はブリゼ(練りパイ)。パイ料理は、伝統的な仕事を継承していきたいというシェフの思いが詰まったスペシャリテである。
新型コロナウイルスにより、緊急事態宣言が出た昨年4月から5月は完全休業をやむなくされた。その後、在庫を抱えた輸入業者からフォアグラや鴨など高級食材を安価で提供してもらい、原価率の高いお値打ちコースを展開。同じビル内で働く人向けに弁当の販売も始めた。店に来られない常連客のためにテイクアウトや通販もスタート。売り上げが伸び悩む7〜8月も順調に集客が叶い、例年を上回る結果となった。ホテル時代の経験を生かした「プレスキル」初のおせち料理も好評だったという。
「コロナ禍で新しい試みに挑戦する機会を得ました。うちにしかできないものを提供すること、クオリティには自信があります。顧客を持つ強みも実感しました」
新型コロナウイルスが無事終息を迎えたら、今までよりも「贅沢」を楽しむ人が増えるだろうと佐々木シェフは予測する。
「フランス料理の本質を伝えるという考えは変わりませんが、その時代に求められるメニューやもてなしの形に合わせ、柔軟に変化することも必要だと思います。AIが導入され、調理がデータ化される時代になっても、ゲストの好みやその日の体調に合わせた気遣い、臨機応変な対応ができるのは培ってきた経験や感覚があってこそ。私たちにしかできないことを大切に伝えていきたいですね」。
ARCHIVED COLUMN
「王道の仕事を伝えていく。その思いに変わりはありません」
佐々木シェフにとって欠かせない素材、それはフォアグラ。かつては鮮度の良いものが入らず、修業時代に学んだ血抜きをする意味があるのか?と疑問を感じたことも。現在では日本でも急冷した新鮮なフォアグラが入手可能となり、下処理の方法も真空調理とスチコンが多い。
佐々木シェフは湯煎に近い火入れができるクラシカルな「トーション(布巾)巻き」など、AI化によって失われてゆくアナログな調理法を今こそしっかり継承していくべきだと話した。
プレスキル
大阪市中央区今橋4-1-1淀屋橋odona 2F
TEL 06-7506-9147
11:30~15:00(14:00LO)
17:30~22:30(21:00LO)
12/31、1/1休
text: Sawako Yamada photo: Katsuro Takashima
本記事は雑誌料理王国2021年6月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2011年3月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。