「リストランテ濱﨑」濱﨑龍一さんの冬の魚の使い方~ヨロイイタチウオ編~


出汁がよく出るこの魚の特徴を生かし、
蒸し煮にしてすべてを食べ尽くす

実家は鹿児島県で、薩摩揚げやかまぼこなどの製造・販売を手がける。自他共に認める釣り好きでもある。魚に詳しくないわけがない。そんな濱﨑龍一さんが選んだ魚は、ヨロイイタチウオだ。築地市場などではヒゲダラと呼ばれるが、タラの仲間ではない。「東のほうの人はあまり馴染みがないようだけれど、僕が生まれ育った鹿児島では、たまに目にすることがありましたよ。白身魚で味が淡泊だから、昆布締めやフライ、鍋物にすることが多い。小さいものはすり身にすることもあります」上品な甘みをもつ白身なので、魚の旨みを引き出す程度のやわらかな味付けのほうが向く。味噌やしょう油との相性もよく、西京漬けなどにも向いているという。

魚の煮汁にイタリアン素材をプラス

今回は、いくつか考えた結果、蒸し煮にすることにした。シンプルに味を引き出し、イタリアンらしく。 それでいて、繊細な旨みが口のなかで広がるひと皿を目指す。「使うのは、1尾1~1・2キロのもの。これくらいが、僕は使いやすいと思っています」ヨロイイタチウオは、蒸すと身がふっくらする。加えて、出汁が良く出るという特徴も備える。そのため濱﨑さんは、身に旨みをしっかり閉じ込め、さらに煮汁のなかに溶け出したヨロイイタチウオの旨みもすべてを食べ尽くしてもらうために、蒸し煮を選んだ。

「作り方はとてもシンプル。鍋に出し汁とスプマンテを入れて、レモンスライスを敷いた上にヨロイイタチウオの切り身とバジリコの葉を乗せて蒸し煮にするだけです。スプマンテを入れたのは、少し爽やかな風味を出したかったからです」 ポイントは、そのヨロイイタチウオの煮汁を使ってソースをつくる点。カットしたグリーンオリーブも黒オリーブも、レモンオイルと香辛料とともに漬け込んで風味をうつしている。どうやら、キーになるのは、 レモンらしい。


 「今回は、ヨロイイタチウオの煮汁にあさりの出し汁を加えました。というのも、この時期のヨロイイタチウオはまだまだ旨みが少ないから。もっと寒くなって水温が下がり、味がのってきたら、僕はアサリの出し汁は入れないでしょうね」 同じ旬の時期でも、海の様子や海水温の変化などで、魚の状態は変わる。目の前の魚がどんな状態なのかを見極め、調味料の量や合わせる素材を変えることが、「美味しい!」 とゲストに喜んでもらうひと皿を作るためには不可欠なのかもしれない。「実家がかまぼこ屋だから、昔から鹿児島の業者さんとは顔なじみ。だから、『こういう料理を作りたいから、良い魚を送って』と電話でひと言いえば、絶妙な魚が送られてくることもあります。最近は物流がよくなってきたから、鹿児島からでもすぐに届きますからね」


もちろん、鹿児島の業者だけではなく、東京の仕入れ先も、濱﨑シェフの好みは熟知する。品質については、仕入れ先の〝魚を見る眼〟に全幅の信頼を置く。 エビの絵柄のついた皿に盛られ出てきた「ヨロイイタチウオの蒸し煮オリーブとドライトマトのエクストラヴァージン風味」は、ヨロイイタチウオの優しい旨みがギュとつまった一品。レモン風味のオリーブやドライトマトとの相性も抜群で、案の定、ソースは絶品。「一滴も残したくない」という思いに駆られる。繊細できめ細やかな味わいを、イタリアンらしさで包み込んで……。さすが、〝魚の達人〟である。

旬のヨロイイタチウオ こう使う!

ヨロイイタチウオの切り身にゆっくり火を入れる
出し汁を入れた鍋にレモンのスライスを置き、その上にヨロイイタチウオの切り身をのせ、バジリコの葉ものせて、蒸し煮にする。魚に火を入れすぎないのがポイント。

ヨロイイタチウオの煮汁にイタリアン野菜を加えソースに
ヨロイイタチウオの煮汁とアサリの出し汁を入れた鍋に、カットしたグリーンオリーブ、黒オリーブ、ドライトマトを入れて火を通す。最後にレモン汁と塩で味を整える。

text 山内章子 photo 依田佳子

本記事は雑誌料理王国第232号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第232号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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