海藻から有効成分を引き出す方法


海藻を消化できるのは日本人だけ

日本人は昔から海藻を食べてきましたが、少し前まで、海藻は食べてもほとんど消化されずに体から出ていくと考えられていました。それが最近になって、ほとんどの日本人が海藻に含まれる食物繊維を分解できて、体によい成分を取り出していることが明らかになったのです。ほかの国には海藻を消化できる人は少ししかいません。これは日本人が「バクテロイデス・プレビウス」という特別な腸内細菌を保有しているため。日本人の腸には、米から栄養をしっかり吸収するのに役立つ菌も多く存在しており、長い歴史のなかで日本人の食生活に合う腸内細菌が住み着き、共存してきたことがわかります。

海藻を分解すると短鎖脂肪酸と いう物質が発生します。動物実験の結果から、この物質はエネルギーを燃やして脂肪の蓄積を抑えることがわかっています。海藻の摂取は、内臓脂肪がつきやすい日本人の不利な体質を補うことにもつながるのです。

メインディッシュで海藻を食べるには

日本のように海藻を食べる国は世界でも少なく、欧米では、ごく一部の地域を除くと、海藻を食材と考えることさえありませんでした。しかし、日本人の平均寿命が世界トップクラスとなり、日本食に注目が集まるなかで、食に海藻を取り入れる動きが広がっています。
 欧米のウェブサイトでよく見かける「海のレタス」は、日本ではおもに佃煮にするアオサのこと。また、ワカメも使われます。これを参考に、まずは本物のレタスをアオサもしくはワカメに置き換えることを考えてみてください。メインディッシュでは、やはり魚やシーフードとの相性はいいはずです。ソースにするだけでなく、魚とたっぷりのワカメをソテーする、魚料理の下に色鮮やかな海藻を敷く、白身魚とシーフードを海藻と蒸す、魚の中に海藻を詰めて調理するなど、日本人にとってはなじみ深く、世界の人には新鮮な海藻をどんどん活用していただきたいと思います。

藤春幸治さんが提案するひと皿

日本の歴史に寄り添ってきた食材を極限まで健康的に、豊かに味わう

海に囲まれた日本で古くから食されてきた海藻と魚

「海藻」というテーマのもと、藤春さんが提案するのは鯖を使った前菜のひと皿。海に囲まれ、古くから魚や海藻などミネラルを多く含む食材に親しんできた日本の歴史を振り返り、縄文時代から食されてきたといわれる鯖と、ナトリウムが少なくカリウムを多く含む「二見ながも」を使用。和の野菜であるダイコンは桂むきにして繊維を切らず、茹でずに低温の湯にくぐらせるだけにすることで、カリウムと酵素を失わないようしている。

また、鯖に含まれる「オメガ3系脂肪酸」は、食物から摂取しなければならない必須脂肪酸でありながら酸化しやすい。そこで、効率よく摂取できるよう抗酸化力のあるポリフェノールを含む「マキベリー」を合わせる。さらにハーブや穂紫蘇(ホジソ)、植物性発酵食品である醤油を使ったジュレ、昆布のチップを添え、フュメ・ド・ポワソンにモロヘイヤを合わせたソースをあしらって、見た目にも美しい“レストランの料理”に仕上げている。

極限まで塩分を抑えつつ豊かな味と香りで食べる楽しさを

この料理では、鯖に塩を打たず、カリウムを多く含み塩分のバランスをとる「二見ながも」を使用している。極限まで塩分を抑えたいという要望も多いという「エピキュール」ならではのひと皿だ。醤油のジュレは小麦やアルコールを含まない醤油を3倍に希釈して塩分を抑えながら、刻んだミョウガで風味に厚みを持たせ「醤油を食べた」という満足感を与えるギリギリのバランスを保っている。さらに、マキベリーのソースやハーブが、薬味として味や香りで塩味の少なさを補う。塩味に代わる要素で輪郭を与えられた鯖と二見ながものすっきりとした旨味が、マキベリーの華やかな香りとともにストレスなく浸み渡っていく。食べる人を思い計算され尽くした美しさ、完璧なバランスに、誰もが少なからぬ驚きを感じるだろう。

「厳しい制限をしていらっしゃるお客さまたちが、『それでも今日はおいしいものが食べたいから』と店に足を運んでくださいます。そんなお客さまに、安心で、本当においしい料理を出すことができれば最高じゃないですか。おいしい料理を作るのは私たち料理人が一番得意とするところ。今までと違った視点を持って、食べる喜びを求めている人たちのために新たな料理を生み出していければと思っています」

鯖の酢じめと佐渡二見ながものテリーヌ
マキベリーチアシードとモロヘイヤソース
栄養バランスに優れた海藻「二見ながも」(アカモクの一種)と、鯖を使用。3倍に希釈した醤油のジュレ以外は塩分不使用。「マキベリー」で栄養を効率よく摂り込む。

POINT

薬味の味と香りで塩分を抑えつつ「二見ながも」でバランスをとり 鯖の栄養をスーパーフードで効率よく摂り入れる

塩をまったく使わず軽くマリネした鯖と「二見ながも」を桂むきしたダイコンで包み、スーパーフード「マキベリー」とチアシードオイルのソースを乗せる。

ハーブや穂紫蘇(ホジソ)を添える。マキベリーのソースやハーブ、穂紫蘇は薬味のイメージ。薬味の味と香りで、塩味がなくても満足できる味わいに。

最後にあしらうソースは、フュメ・ド・ポワソンを煮詰めて甘味を出したものに、モロヘイヤのピュレを合わせて。洋の味わいを演出。

本記事は雑誌料理王国278号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は278号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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