食の未来が見えるウェブマガジン

【連載】パンデミックに直面した海外で活躍するシェフの視点 Vol.1 渡邉卓也さん(前編)


2020年5月7日発売の料理王国6・7月号合併号緊急特集「コロナ時代の食の世界で新しい『ものさし』を探しに。」では、「海外で活躍するシェフの視点」と題し、「noma」のレネ・レゼピ氏を始め、有名シェフ6人のインタビューを掲載。新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)と食についての多種多様な考え方や意見があり、読者からも多くの反響が寄せられた。日本では5月25日に緊急事態宣言が全面的に解除されたが、刻一刻と状況が変化するコロナ禍においては、まだまだ予断を許さない状況が続くだろう。料理王国では引き続き、COVID-19と食のあり方を皆さんと一緒に探るべく、舞台を誌面からウェブに移して「海外シェフの視点」の連載を開始する。パンデミックに直面したシェフたちは、どのようなアクションを起こし、いま何を見据えているのか。

第1回目は、パリで鮨店「JIN 仁」を構える渡邉卓也さんが登場する。

Vol1.渡邉卓也さん JIN 仁 (フランス・パリ)

わたなべ・たくや/1976年生まれ。北海道ニセコ町出身。寿司屋の出前スタッフやトラックの運転手などの経歴を経て、日本料理店や創作和食店を経験し、28歳で独立。ダイニングレストランを開くと評判を呼び、札幌で「田久鮓」「TAKU円山」など4店舗を展開した。2013年にはフランス・パリに鮨と日本酒を楽しめる店「JIN 仁」をオープン。コンセプトに「地産地消」を掲げ、フランス近郊で獲れる魚をメインの食材に使う。2014年にはミシュランの一つ星を獲得した。

休業中もSNSでレシピを発信 シェフ同士のコミュニケーションを大切に

――フランスでは5月11日から外出規制が緩和されましたが、現在(注:取材時は5月21日)の街の様子は?

「約2ヶ月間も外出が制限された生活を送ってきたので、その反動もあってか、街には人が溢れている印象ですね。制限付きではありますが、百貨店やブティックなどの営業が再開しています。ただ、カフェやブラッスリー、レストランの休業は続いている状況です」

――フランスのロックダウンが始まってから、「JIN」ではどのような対応を?

 「ロックダウンが始まった3月17日から、『JIN』はずっと休業しています。コロナ禍の店の運営については、国によって状況も違いますし、それぞれの考え方や意見があるので、これはあくまで僕個人の意見ですが、命があって初めて仕事ができると思いますし、従業員の健康も守りたかった。迷わず休業を選べたのは、従業員給与の約8割を補償するなど国からの手厚い補償があるからです。20%の消費税など普段から高額な税金を払っていますし、アラン・デュカス氏や『ラミジャン』のステファン・ジェゴ氏がマクロン大統領と面談し、料理界を守る約束を取り付けてくれたことも大きいと思います。国から『守られている』という感覚があります」

――休業中、家ではどのように過ごしていますか?

「僕と妻と子ども2人、基本的に他人との接触を控えて、家にいます。外に出るのは1時間程度の軽い運動と、生活必需品の買い物くらい。料理は朝と夜、家でしっかり作るようにして、毎日SNSでレシピを発信しています。僕の投稿を見て、普段直接会っても軽く挨拶を交わすくらいのシェフがメッセージをくれたり、電話をかけてくれて1時間も話し込んだり、いまは時間があるのでしっかりコミュニケーションが取れている。そういった面ではプラスに捉えていますね」

4月5日にSNSへ投稿した「ホワイトアスパラご飯」。アスパラの苦味とご飯の甘さが味わえる一品。
5月21日の「鶏冷麺」。鶏胸肉と胡麻、旬のアスパラソバージュを使って、さっぱりとした味わいに仕上げた。

――日本にいるシェフ仲間とも連絡を取り合っていますか?

「もちろんです。日本では国からの補償は不十分で、日本に店舗を構えるシェフ仲間からは不安の声が聞こえてきます。札幌では僕のスタッフたちが働いていますし、仲間のために何か動かなければと思い、3月28日にFacebookでメッセージを発信したんです。『日本でもこれを機に料理人やレストラン、外食経営者、外食関係者、foodieが一丸となって現状を首相や政府に伝え、融資や家賃免除だけではなく給与補償や営業補償をお願いしても良いのでは?』と。すると、『HAJIME』の米田肇シェフがすぐ返信をくださって、フランスと日本の対応の違いや、フランスの補償内容を何度も確認されて、署名を集めたり、政府へ訴えかけたり、積極的に活動してくれました。 本当に感謝です。

――渡邉さんはフランスと日本の料理界の両方を見てこられた訳ですが、コロナ禍で特に感じたことはありますか?

「フランスの料理人は、普段から交流はなくても、有事にはひとつにまとまる力があります。若い人でも意見を言える環境があり、同じ料理人へのリスペクトが感じられるのです。日本の料理界は、誰かが率先して動くと非難されたり、自分に光が当たることに重きを置く方もいたりして、同じ方向を向いていないと感じます。 若手から重鎮までがピンチの時には同じ方向を向いてタッグを組み、立ち向かうことが大切だと感じます。今、絆を強めれば、コロナが収束したら、同じ気持ちで歩き出すことができると思うのです」

後編では、渡邉氏が日本の仲間たちを勇気付けたいと始めた活動や、「JIN」や鮨店のこれからについて語ります。

JIN 仁(じん)
Address 6 rue de la Sourdière 75001 Paris
Tel +33(0)1 42 61 60 71
Open 12:30〜13:30/19:00〜21:00(日月休み)
※店舗営業は現在休業中。テイクアウトの情報や今後の営業についてはfacebookからご確認ください。https://www.facebook.com/JinSaintHonore


text 笹木菜々子


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