2015年9月、東京・中目黒にオープンした「クラフタル」。シェフは、恵比寿「ジョエル・ロブション」、パリ「サチュルヌ」、初台「アニス」というタイプの異なるレストランで腕を磨いてきた大土橋真也さん。33歳の若きシェフだ。ベテランシェフたちからも注目を集め、最新の調理法やプレゼンテーションを認め、大土橋さんの料理の「根本的な味のレベルの高さ」を評価している。
204人のシェフが選んだワケ!
渡辺雄一郎さん「ナベノ-イズム」(東京・蔵前)
新しい調理技術を用いながらも味の根幹にまったくブレがない。
一つひとつがつながって全体を形成する店名の「クラフタルCRAFTALE」は、手仕事を意味する「CRAFT」と、物語の「TALE」を組みあわせた造語だというが、実は、もうひとつ別の意味が込められている。それは、20世紀フランスの数学者ブノワ・マンデルブロが提唱した、幾何学における「フラクタル」概念。英語では「Fractal」、仏語ではそれ に「e」が付き「Fractale」となる。「部分と全体の自己相似性」という難しい概念だが、大土橋さんはこれを、「一つひとつ異なるものがつながっていくことで構築される全体の形」という意味で捉えている。
「フォアグラとポルチーニ、栗の切り株ホロホロ鳥のバロティーヌ」は、その一例だ。ホロホロ鳥や切り株に見立てたフォワグラ、大きなシメジ、という異なる素材が連なり、森の情景を映し出し、クリやピスタチオといった木の実の香りを加えることで、食べ手をさらに深く、森の奥へと誘う。「一つひとつの料理を丁寧に仕上げ、それをつなげていく。料理の色彩も同様に、それぞれ少しずつ異なる色の素材を連続して配置していくことで、皿全体を見たときに、ひとつの世界になっているわけです」
204人のシェフが選んだワケ!
笹尾十三夫さん「レストランラントラクト」(神奈川)
素材を素直に受け入れ表現している。色彩のプレゼンテーションも素晴らしい。
大土橋さん以外のスタッフは、白のシャツとネイビーのエプロンの同じスタイル。役割こそキッチン2人、ホール2人だが、料理ができあがれば、キッチンスタッフが料理を運び、説明もする。店内はキッチンからカウンターテーブル、ダイニングがひと続きになり、その空間は大きなガラス窓を介して外の世界に通じている。それぞれの境界を越えてつながることで、「クラフタル」という空間はできあがるのだ。
「一部と全部はつながっています。だからこそ、自分は、料理の細部をおろそかにしない。今年は、生産者とのつながりも大切にしたい」と、2017年の抱負を語った。「CRAFTALE」は「fractale」の文字をバラバラにして、並べ替えて作った造語だ、と大土橋さんは明かす。「e」が付くフランス語でなければ完成しない単語。つまり、フランス料理でなければならないということだ。この決意こそ、若手一のシェフ、大土橋さんを支えている。
text 江六前一郎 photo 星野泰孝
本記事は雑誌料理王国2017年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2017年3月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。