飲食店の救世主!?フードデリバリー事情大解剖


周栄行(しゅうえい あきら) 
1990年、大阪生まれ。上海復旦大学、NY大学への留学を経て早稲田大学政治経済学部を卒業後、外資系投資銀行へ就職。独立後は、 飲食店の経営・プロデュースをはじめとして、ホテル、地方創生など、食を中心に幅広いプロジェクトに関わっている。

ワクチンの摂取が各国ではじまり出したものの、未だ収束の兆しが見えないコロナ禍。飲食業はオペレーションのDX(デジタルトランスフォーメーション)化の加速、中小チェーンや大手チェーンの店舗撤退、ブランドやグループの統廃合をはじめとして、正に激動の時代を迎えています。そんな中で、急激に拡大を続け、各国の参入が相次いでいるマーケットとしてフードデリバリー 分野があります。本記事では、フードデリバリーのマーケット動向や、飲食店の現状、今後の全体の見通しについて述べていきたいと思います。

 まず、2020年のフードデリバリー市場全体の数字で言うと前年対比で約2倍近くに跳ね上がっています。コロナ禍による外食控えが最大のドライバーになったことは間違いありませんが、もともとあった国内サービス大手・出前館に加えて、Menu、Chompyといった国内新興サービスの参入、UBER EATSやDiDi Food、諸外国のフードデリバリーサービス各社の日本参入もその成長の一助となっているのは間違いありません。そして各サービスが覇権争いのために莫大な販促用資金を投下して様々なキャンペーンを行っています。例えば国産サービスであるMenuはアプリ登録へのアフィリエイト報酬としてそれなりの金額を支払っていますし(2021年2月現在)、配送料を現時点では実質無料に近い状態にしているサービスもあります。コロナ禍によるマーケット全体のモメンタムと、フードデリバリー市場に参入する各社が投下する資本による相乗効果によって、これまで30兆円弱の外食市場の中で数%にすぎなかったフードデリバリーマーケットは異常な速度で拡大しています。

手数料が飲食店を圧迫!?

 日本ではもともと出前の文化自体はありましたが、諸外国に比べてマーケットサイズがそこまで大きくありませんでした。その大きな要因としては人件費が挙げられます。例えば中国ではフードデリバリーは10年以上前からかなり一般的に浸透していましたが、それは大きな経済格差による相対的な人件費の安さによって担保されている面がありました。日本においては、仮に配達専用の人を店舗で1人雇うとすると、1時間あたりで少なくとも3件以上の注文をこなさないと人件費をペイできないと言われています。コロナ禍で急激にデリバリーの需要が伸びたとはいえ、一般の店舗では配送用の資材や車両・人員を専用で用意するのは難しく、そこにフードデリバリー各社の参入余地がありました。

 それでは、フードデリバリー市場の拡大によって既存の飲食店は救われているのかと言うと、そうとは言い難い状況にあります。マーケットサイズは2倍以上になりましたが、フードデリバリーに参入する飲食店数はそれ以上に増えたため、1店舗あたりの注文数で言うとほとんどの店舗で減ってしまっているのが実情です。その過剰競争状態に加えて、フードデリバリー各社の店舗側への手数料の大きさが利益率を大きく圧迫します。出前館で40%、UBER EATSで35%と、販売金額に対する手数料はかなりの割合を占めます。食材原価や包装材費用、デリバリー 対応のための人件費を考えると、決して割りのいい商売とは言い難いところがあります。1店舗あたりの1サービスあたりの月のデリバリー 売上が数万円から十数万円程度、と言うところが大半を占めています。やらないよりはマシ、と言う程度の売上貢献しかしていないお店の方が多いと言えます。

 そもそも、フードデリバリー はレストランと違い、本質的にはサービス業というよりは製造業と言っても過言ではありません。対面での接客を中心としたオペレーションやキッチン構造をしている既存の飲食店が突然デリバリーに参入したところで、大きく利益を出すのは難しいと言わざるを得ません。昨今増えているゴーストキッチン系のフードデリバリーに特化している事業者は、フードデリバリーに特化した商品ラインナップと、1店舗で複数ブランドを展開するなどしてマーケットに最適化しています。既存飲食店がフードデリバリー での売上を伸ばしていくには、サービス業ではなく製造業的側面が強いことを意識した上での商材開発やオペレーション開発が必要となってくるでしょう。

各国から日本へ参入するサービス

 フードデリバリーサービス各社について言えば、国内においては今のところUBER EATSと出前館の2強状態ではありますが、各国のサービスが資本を携えて参入してきています。中国発のDiDi Food、ドイツ発のfoodpanda、韓国発のFOODNEKOをはじめとして、各社共に赤字覚悟のキャンペーンを投下して壮絶なパイの奪い合いが起きています。都内におけるUBER EATSなどの強力な競合を回避するためか、地方都市からサービス開始していきながらエリア拡大しているところが多い印象です。各社共に異なるブランディング戦略がありますが、その中でもフィンランド発のWoltはサービスクオリティとデザインクリエイティブに特化していて、配達員の身なりから受け渡し時の接客クオリティを高めることに主眼をおいているようで、飲食店側からも顧客側からも非常に高い評価を耳にすることが多いです。twitter上で話題になった、誕生日の顧客へのお花のプレゼントなど、まるでディズニーランドかのようなサービス意識の高さは他と一線を画していると言えるでしょう。

フードデリバリー を一括検索するサイトも登場

 一方で、そんな乱立するフードデリバリーサービスに、顧客側の体験が損なわれている一面もあります。例えばUBER EATS上での評価は店舗での味の評価とは別の評価軸のため、検索上位にくるのはチェーン店や同じ店ばかりとなっている状況があります。そんな中でフードデリバリー を一括検索するサイトが「いえメシ」(リンク:https://www.iemeci.com/)です。現在地から、食べログの点数や各フードデリバリー の評価点をもとに、本当に評価の高い店舗のデリバリーをサービス横断で一括検索できる、いわゆるアグリゲーションサイトと呼ばれるものです。求人におけるIndeed、宿泊におけるTrivagoなどがこれに相当します。フードデリバリー分野のアグリゲーションサイトではアメリカのFoodbossに次いで、日本ではいえメシが立ち上がっており、フードデリバリー全体にインパクトを与えうる存在になっていく可能性があると私は見ています。

 今後、フードデリバリー各社の競争は益々激化していくでしょう。それに対応したゴーストキッチン系ブランドも数多く立ち上がり、刻一刻と変化していきます。また、2022年頃にはドローン配送の実装も考えられており、実証実験が進んでいます。自動運転やドローンといったハードウェアの革新によってデリバリー人件費が抑えられるようになると、客単価が大きく下がり、さらなる成長が訪れる可能性があります。これからもフードデリバリーが注目の分野であることは間違いないでしょう。


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