水、きちんと選んでますか?


最も身近な食材である「水」。人の体のほとんどが水でできているように、レストランもまた水なしには存在しえない。ここでは、料理人として押さえておきたい基本のおさらいから、店の呼び水となりうる可能性について探る。

日本の水道普及率は98パーセント。水道水をそのまま飲めない国や地域も多いなか、日本は世界有数の水道先進国といえる。その一方で、ミネラルウォーター市場も年々拡大する。一時期は落ち着きをみせた海外のミネラルウォーターも再び輸入量が増加。国産ミネラルウォーターにおいては、ここ数年、高まる需要に合わせて生産量・消費量とともに成長を続ける。

蛇口をひねれば自由に使える水がある環境に加え、ミネラルウォーターや浄水器といった新たな選択肢が広がるなかで、果たして最適な「水」をきちんと選べているのだろうか。

身近すぎる「水」について改めて基本に立ち返るべく、水に造詣の深い山中亜希さんに話を伺った。

ミネラルウォーターと水道水どちらがおいしい?

日本人にとって最も身近な水である水道水。ミネラルウォーターとの比較では、味と価格の違いを指摘する人が多いだろう。価格については、圧倒的に水道水の経済性が高いことは想像に容易だが、「味」については本当に差があるのだろうか。

「浄水器を通すなど条件はつきますが、国産の軟水ミネラルウォーターと水道水を純粋に味だけで比べれば、正直、8割の人は区別がつかないと思います。ふたつの水の味を最も大きく変えるものは『塩素』の有無です」

 そもそも、水道水とミネラルウォーターでは、安全基準を定める法律がまったく異なる。水道水の安全基準は「水道法」で定められ、51項目をクリアする必要がある。一方、ミネラルウォーターについては「食品衛生法」によって原水に18項目の水質基準が設けられている。

「水道水には1リットルあたり0.1ミリグラム以上の塩素を含むことが定められています。その分、塩素によって生じるトリハロメタンなどの化合物についてのチェック項目が増えています。単に項目数だけの比較で、ミネラルウォーターは水道水よりも安全基準が甘いという批判もよくありますが、それは的外れです」

古くから「水道水がまずい」とされてきた原因は、その塩素による影響が大きい。だが、昨今ではサビやカビ臭も合わせて、浄水器でほぼきれいに取り除くことができる。

2割が気づく味の差には、主に採水地と硬度の違いがある。水道水の約7割(都内では9割)が「地表水」を原水とするのに対し、国産のミネラルウォーターの原水は「地下水」がほとんどだ。ミネラルは地層から溶け出すので、ミネラルウォーターにはその土地由来のミネラルが含まれ、個性が表れる。カルシウムとマグネシウムの量を表す硬度についても水道水は「300mg/l 以下」と決められているが、ミネラルウォーターには制限がない。とはいえ、国内では硬度100mg/l 以内の水が多いので、海外の硬水との差ほどの違いはない。「平たく言えば、水道水は『リサイクルされた水』で、ミネラルウォーターは『生きている水(天然水)』ということ。どちらがよい悪いではなく、似て非なるものとして、目的に応じて使い分けるのがよいと思います。ただし、飲食店なら浄水器はマストで取り付けていただきたいですね。塩素は確実に料理の味を損ないますから」

「水」にもいろいろな種類がある

「水」とひと口に言ってもさまざまな種類がある。飲料水は水源によって「地表水」「地下水」「海水」の3つに分けられる。日本では、水道水のほとんどが「地表水」でまかなわれ、ミネラルウォーターは「地下水」の「鉱水」の割合が高い。同じ種類でも採水地の土壌や環境によって豊かな個性が表れる。水道水にもミネラルは含まれるが、どんなに清らかな原水でも必ず塩素0.1mg/ℓ以上を加えることが水道法で定められる。赤字はミネラルウォーターのラベルで原材料として表示される7つの分類。分類表示はメーカーの判断となる。

主な原水の種類

地下水

井戸水
井戸からポンプなどで採水される地下水で、採水される層の深さにより「浅井戸水」と「深井戸水」の2種がある。昔ながらの民家にあるのは浅井戸水で、地表の影響を受けやすく、農業散水などに用いられることが多い。深井戸水は安全性も高く、水道水源のほか工業用水などにも使われる。

鉱水
ポンプなどで汲み上げられた地下水のうち、鉱物質(ミネラル成分)を含んだ水のこと。いわゆる自然界の天然水のことで、日本の製品化しているミネラルウォーターのうち、およそ3割弱は鉱水が原水。

湧水
自然に湧き出ている地下水のこと。このうち、炭酸ガスや鉱物質(ミネラル成分)が含まれる水温25℃以上のものは「温泉水」、25℃以下のものは「鉱泉水」と呼ばれる。全国各地で“名水”として扱われていることも多い。水質検査が行われている水源もあるが、そうでない場所もあるので利用には注意が必要。

伏流水
極めて浅いところにある地下水で、河川敷などの荒い砂を含む砂礫層を流れる水のこと。不純物が自然にろ過されるため良好な水質が特徴で、古くから日本酒の仕込み水として利用されてきた。

地表水

河川水・ダム湖水・湖沼水
陸地表面にある水のこと。河川水は雨などの自然の影響を受けやすいが、ダム湖水や湖沼水は水の動きが少ないため水質は変動しにくい反面、一度汚染されると回復に時間がかかる。日本の水道水はダム湖水と河川水が主な水源であり、全体の7割を占める。

海水

海洋深層水
一般的に水深200メートル以深の海水のこと。有機物に必要な太陽光が届かず、表層水より温度が低く汚染の可能性が少ない深層水は「地球最後の資源」とも言われている。飲料水として市販されている海洋深層水は、塩分とミネラルを一度すべて取り除き、調整して再添加したものが一般的。

農林水産省「ミネラルウォーター類の品質表示ガイドライン」(1995)参照


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