水、きちんと選んでますか?


テーブルウォーター選びが店の印象を左右する

「日本ではさまざまな国の料理が楽しめるのに、水についてはレパートリーが少なく残念に思っています。ミネラルウォーターがメニューにあっても種だけ、セレクトも画一的でつまらないことも多い。日本でもペアリングという考えが浸透してきましたが、ヨーロッパでは料理・酒・水と三角形で考えることが一般的なため、水も店の個性を表現する大事なアイテムとしてとらえられています。ワインリストで店のこだわりを伝えるように、水もリストで提示する店は料理への期待も自然と高まります」

海外では「TDS(総溶解固形分)」という、水に含まれるミネラルの総濃度を示す指標が普及している。硬度では表しきれない水の個性を知る指標として活用されており、スウェーデンでは、TDSを4段階に分けた水をワインに合わせて選ぶというマーケティングも行われているという。「水にこだわれば、料理の味も評価も客単価も必ず上がるはず。お酒が飲めない方が多い日本でこそ、もっと浸透すべき習慣だと思います」

客単価アップにつながる
テーブルウォーターの選び方

アクアソムリエとして活躍する山中さんに、シーンごとにテーブルウォーターをセレクトしてもらった。「料理に合わせる水ひとつで、料理もワインもワンランク格上げすることができます。ワインと同じく、水も温度が重要で味わいを大きく変えます。提供時には必ずクーラーを添えるなど、温度管理にも気を配りたいですね」

食前に合わせるミネラルウォーター

洋食に限らず、食前は炭酸水が最適。炭酸が血管を刺激することで血流が増加して胃の動きを活発にしてくれる。フルートグラスや、硬水ならワイングラスよりもひと回り大きなゴブレットがよく用いられる。

奥会津金山 天然炭酸の水

特 徴
国産ではめずらしい天然炭酸ガス含有のミネラルウォーター。福島と新潟との県境にある雪深い奥会津金山で採水される。一日に採水できる量に限りがある大変貴重な水。平均45mg/ℓの軟水。

おすすめポイント
「少し酸味のあるきめ細やかな泡は口当たりがとてもなめらか。やわらかな炭酸は食欲増進効果もあり、料理の味も邪魔しません。伊勢志摩サミットでも選ばれ、和食に添える水としても重宝します」

食中に合わせるミネラルウォーター

“万能選手”として重宝するのが、魚介系のあっさりした料理からクリームが使われるこってり系まで幅広い料理とマッチする中硬水。消化を促す炭酸入りなら、食事にリズムを与えてくれるだろう。

AQUA CARPATICA (アクアカルパティカ )

特 徴
ルーマニアのカルパティア山脈で採水されるピュアな水。ほとんど硝酸塩を含まない天然水なので妊娠中の方でも安心して飲める。 186mg/ℓの中硬水で、すっきりと飲みやすい。

おすすめポイント
「ミネラルがほどよく含まれており、バランスがとてもいいので料理の味を邪魔せず、口の中をクリアにしてくれます。和食やさっぱりした料理との相性がとくにいいですが、どんな料理とも合わせやすい水です」

CAPI(カピ)

特 徴
昨今、料理界で最も注目を集めるオーストラリアで、シェフから圧倒的な支持を得るスパークリングミネラルウォーター。コロンとかわいい形のボトルも高評価。168.9 mg/ℓの中硬水に近い軟水。

おすすめポイント
「ほどよいミネラル感があり、後味はさっぱり。少しボリューミーな料理でも口の中の油や濃いソースを洗い流し、次のひと皿へとつなげてくれます。華やかでありながら、存在感が強すぎないのも魅力」

SANT ANIOL(サンタニオル)

特 徴
世界的に有名なレストランやホテルなどで愛飲されている、スペインのカタルーニャ州を代表する水。炭酸は強めがいいけど酸味はちょっと苦手、という方におすすめ。292.0mg/ℓの中硬水。

おすすめポイント
「地中海料理や中国料理など少しクセがある料理には、少し強めの炭酸水を合わせるといいバランスに。口の中をリセットし、ほどよく胃腸を刺激し消化を助けてくれるので、胃もたれしづらくなるメリットも」

食後に合わせるミネラルウォーター

食後は、重炭酸塩が含まれる水をあまり冷やさずに飲むと胃酸を調節する働きが期待できる。また、コーヒーを淹れる水もこだわると味わいが増す。浅煎りなら軟水があっさりと仕上げてくれ、深煎りの豆は中硬水でじっくり淹れるとコクが加わる。

OREZZA(オレッツァ)

特 徴
パリの名だたる高級ホテルがこぞって採用するコルシカ島の水。古代ローマ人も愛したといわれ、伝統も由緒もある名水だが、採水量が少なく生産数が限られているため「幻の水」とも呼ばれる。642mg/ℓの硬水。

おすすめポイント
「カルシウムと重炭酸塩が多くナトリウムが少ないので、爽やかな喉ごしが楽しめます。フレンチとの相性が抜群なことは言うまでもありませんが、個性的なデザートと合わせても後味がすっきりするのでおすすめです」

水を正しく知るテイスティングの仕方

水をきちんと選ぶために、正しい味を知るテイスティング方法も覚えておきたい。テイスティングは空腹・満腹時は避け、食間に行うことが好ましい。体調や気候によっても感じ方が異なるため、山中さんが味の判定を行う場合は同じ水を何日かに分けて確認することが多いという。水は繊細な味のため、テイスティング前の数日は匂いや刺激の強い食事は避ける。

【ステップ1】水の温度は常温に

炭酸のあるなしにかかわらず、最も味が判別しやすい常温「15度」にしておく。ただし、炭酸水は温度によって本来の炭酸濃度が変わってしまうこともあるので留意する。ペットボトルより瓶のほうが水本来の味が保たれる。

【ステップ2】グラスを用意する

グラスはガラス製を用意。界面活性剤不使用の洗剤で洗い、よく乾かしておく。においや汚れがないかを確認する。炭酸は先のすぼまったグラス、炭酸のないスティルウォーターは先が開いたグラスで、手の温度が伝わりにくい脚付きが望ましい。

【ステップ3】グラスに注ぎ、見る

水は必ずグラスへ注ぎ入れる。酸素が混ざることで、水本来の味が際立つ。色や泡の有無、炭酸ならば発泡の大きさや量を目でチェックする。スティルウォーターでも気泡が生じるものもある。

【ステップ4】においを確認する

水は基本的に無臭だが、環境の影響を大変受けやすいため、品質チェックのうえで重要なステップ。カルキ臭やカビ臭、ペットボトルやタンクなど梱包素材や保存場所のにおい移りがないかを確認する。

【ステップ5】口に含む

最初のインスピレーションが大切なので、飲み方は普段どおりでOK。ワインのように口に含んだり転がしたりしない。舌の中央にのせる癖がある人は繊細な味を感じにくいこともあるので、舌先や舌奥に意識を向けるとよい。

【ステップ6】味を確かめる

酸味やミネラル感、喉の引っ掛かり、後味を確認する。何口も飲むと印象が薄まるので直感を大事に。続けてテイスティングする際は、唾液や普段飲む水(マザーウォーター)で舌の感覚を戻して。

教えてくれた方

アクアデミア校長 アクアソムリエ 山中亜希さん
2004年、イタリアにてアクアソムリエの資格を取得。2008年よりアクアソムリエを養成するミネラルウォーターの専門スクール「アクアデミア」を開校し、校長に就任するとともに、ミネラルウォーター専門店「アクアストア」のディレクターとしても活動。ミネラルウォーターの正しい知識・情報の普及のために、セミナーや講演、企業へのコンサルティング業務なども行い、海外からもセミナー講師として招聘される。

君島有紀=取材、文 林 輝彦=撮影 (図表はすべて編集部調べ)

本記事は雑誌料理王国2019年8月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2019年8月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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