「粉がよくても、腕が悪ければいい生地は作れない。生地がよくても、窯が悪ければ旨いピッツアは生まれない。どれもがパーフェクトで、初めておいしいピッツァができるんだ」とサルヴァトーレ・クオモさんは言う。だからこそ、生地、窯、技に力を注ぐ。
「粉は、今は日本のものをブレンドして、イタリアの粉に近い風味のものを作ってもらっています」ナポリでよく使われているカプートを輸入しているピッツァイオーロも多いなか、サルヴァトーレさんはなぜ日本の粉を選ぶのか。
「イタリアから輸入するまでにはそれなりの時間がかかり、劣化もする。粉は水分を吸収しやすいから、害虫の温床にもなりやすい。衛生管理の問題もある。だから僕は日本の粉を使っているけれど、ピッツァイオーロそれぞれに考えはあるからね。要は何を大切にするかなんだ。ただ、味だけでいったら、やっぱりイタリアの粉は旨いよね」
さらに窯は、ナポリでも著名な窯職人が手作りした薪窯。熟達した職人の経験と技が詰まっているこの薪窯は、中の圧力や保温力が格段に違うという。
「ピッツァをこの中に入れたら、僕らピッツァイオーロはいっさい手出しできない。だから、最高の窯を使いたいと思うんだ」
そして最後は、技。ピッツァイオーロの技量である。「僕は、ピッツァイオーロは日本の寿司職人と似ていると思っているんだ。どちらも手の平の感覚が勝負の
職業だからね。それが鋭い職人は、生地を怖がらない。だから、余分なことはしないんだ。でも、こわごわやっている職人は、無駄に粉を足してしまったり、生地が常温に戻りきっていないのに伸ばし始めてしまったり……。旨さを壊してしまうようなことをやってしまう。旨いピッツァを提供しようと思うなら、やっぱり生地ときちんと向きあえるピッツァイオーロを育てていくことが大切だと思っています」
とくに多店舗展開する場合は、この人材育成が不可欠となる。クオリティを保つために、各エリアにセントラルキッチンを設けて、生地の一元管理をさせる。 一方で、トマトソースはサンマルツァーノ種を中心に、いくつかの種類をブレンドし、ピッツァにぴったりの酸味や甘味、フレッシュ感を備えたものを直輸入。オリーブオイルもいくつかをブレンドした、サルヴァトーレ・オリジナルだ。水牛のミルクで作ったモッツァレラチーズも、週に2回、空輸されてくる。多店舗展開するサルヴァトーレだからこそできる〝贅沢〞だ。
文゙:山内章子 撮影:新山貴一
本記事は雑誌料理王国第222号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第222号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。