「ギンザトトキ」には、中国料理の高級食材である干し鮑を使った人気のひと皿がある。アラカルトで供する特別メニュー「干し鮑の赤ワイン煮」は、どのように誕生したのか?
「きっかけは、キャビアの輸入規制でした」と、十時亨さん。2006年、ワシントン条約によってキャビアが入手困難になると、十時シェフは、それに代わる高級食材を模索した。「高級食材」といっても、ピンからキリまである。海産物の〝ピンのなかのピン〞は何か――行きついたのが乾物だった。「いろんな乾物を試しましたが、フカヒレは中国料理のイメージが強い。ナマコは、見た目の美しさを表現しにくいと感じ、干し鮑を選んだんです」。
乾物の戻し方は、当時「銀座アスター」の総料理長だった久保木武行さんに教わった。素材の外側と芯の部分がバランスよく戻るように調整する複雑なプロセスに驚かされた。
教わった方法を参考にして試行錯誤を重ね、十時さんは干し鮑をフランス料理のひと皿に昇華させる。白ワイン、焼酎などあらゆる酒と合わせて煮込んでみたが、マッチングが一番良かったのが赤ワインだった。赤のなかでもさまざまなブドウの品種を試し、3カ月かけてルセットを完成させた。
「干し鮑の赤ワイン煮」は調理に約10日を要する。まずは干し鮑を水に一晩浸し、沸騰させてからヴァプールする。その後、常温に戻るまでゆっくりと冷ましてから冷蔵庫へ。翌日、またヴァプールし、冷まして冷蔵庫へ。7日間程それを繰り返す。干し鮑は個体差があるので、状態を見ながら戻りのタイミングを見極め、その後、赤ワインと鶏のブイヨン、香味野菜とともに3日程煮込む。
「絶妙に戻された干し鮑は味わいが深く、海の香りを堪能できる。そこに赤ワインを加えると、旨味がぐっと引き立つんです」。十時さんは干し鮑という食材に出会って以来、今も乾物の魅力にはまっている。
フランス料理と中国の食材の、極上のマリアージュ。十時さんはこのルセットが
完成した時、大きな手ごたえを感じたという。ひと皿の値段は、干し鮑の品質と
重量によって決まる。
1956年福島県生まれ。国内での修業の後、82年に渡欧。ベルギーとフランスで研鑽を積む。92年に「銀座レカン」料理長、2000年には総料理長に就任。03年「レディタン ザ・トトキ」をオープン、13年「GINZATOTOKI」としてリニューアル。15年、現代の名工に選出され、料理マスターズブロンズ賞を受賞。
東京都中央区銀座5-5-13 坂口ビル7F
☎03-5568-3511
● 11:30~14:30(13:30LO)
18:00~22:00(21:00LO)
●月休(祝日の場合営業)
●ラ ンチ 2500円~
コース 夜7800円~
●24席 www.totoki.jp
料理王国=取材、文 料理写真・内観写真提供/ギンザ トトキ
本記事は雑誌料理王国273号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は273号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。