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【鶴岡】美食ローカルガストロノミー交流イベント


創造的な地域産業を振興し、文化の多様性保護と世界の持続的発展に貢献することを目的に、ユネスコが2004年に創設したユネスコ創造都市ネットワーク。
その「食文化」の分野において食文化創造都市として、2014年に日本で初めて食文化創造都市として加盟認定を受けた、山形県鶴岡市。

標高2000メートル級の山々から海までの標高差が生み出す多種多様な気候風土、出羽三山を抱き、精進料理をはじめ、食と信仰という日本人の原風景にも深い関わりを持つ土地柄。

ローカルガストロノミーの新たな可能性を探るため、同じように雪深く、冬を越すための様々な保存食の文化がある信州で、鶴岡の料理人たちが食について学ぶ取組や信州料理人との交流、鶴岡の食材や食文化を紹介・発信するイベントが行われた。

参加したのは、地元の若手料理人を対象に「自己の解釈による鶴岡ガストロノー」をテーマとして、に令和元年、去年とこれまでに2回、市鶴岡食文化創造都市推進協議会(事務局:鶴岡市)が主催して行った食文化創造アカデミーのコンテスト鶴岡№1次世代料理人コンテストで、グランプリ、準グランプリなどの賞に選ばれた以下の6人の料理人が参加した。
齋藤翔太(「日本料理店 庄内ざっこ」)
木村英之(「ベルナール鶴岡」日本料理)
遠藤亮(「鶴岡協立病院」)
渡部賢(「日本料理わたなべ」)
工藤知成(「ベルナール鶴岡」フレンチ)
宮崎幸也(「東京第一ホテル鶴岡」)

一行は漆器の製作所や料理マスターズにも選ばれた蕎麦の名店「職人館」などを訪問した後、ミシュラン二つ星「INUA」で修業したクリストファー・ホートンシェフが率いる「松本十帖」を訪問。ホートンシェフが地元信州を流れる千曲川から着想を得て、地元食材で生み出したコースメニューを楽しんだ。

宿泊施設と書店、レストランが一体化した「松本十帖」の料理を統括するホートンシェフだが、ダイニングの名前は「三六七(三六五+二)」。そのいわれは、風土を生み出す365日に「文化」と「歴史」の2つを足し、367kmの千曲川の長さとかけたもの。

コースは川が源流の山の上から流れ、海に至るまでの流れを表現している。

苔をイメージし、レンコンをすり下ろして蒸し、パン粉とイタリアン パセリをまぶしたもの

実際にクリスシェフは、右腕の石川大シェフと共に、千曲川の源流を求めて山道を6時間かけて歩き、その時にみた景色を苔の料理で表現した。
料理に使う水は、北馬場柳の井戸水で、近隣には20の湧水があるが、アクセスの良い場所の水を実際に複数テイスティングし、ミネラルのバランスが良いと感じたものがこれだったという。

独自品種の野菜の一つ、「温海(あつみ)カブ」に注目

海に至るまでの9品のコースの中でも、鶴岡の料理人たちが注目したのが、温前菜として出された、鶴岡に約60種あるという独自品種の野菜の一つ、「温海(あつみ)カブ」を使った料理。

このカブは鶴岡で300年続く、伝統的な焼畑農業で作られている在来種で、焼いた畑には再度植林をすることで、長年自然のサイクルが生み出されてきた。事前に今が旬の在来種のカブ4種類を事前にサンプルとして送り、その中で、「ローストしても、スモークの香りに負けない味がある」と、ホートンシェフと石川シェフが選んだもの。
通常地元ではこのカブは甘酢漬けにする。しかし、クリスシェフは、昆布とアルミホイルに包んでから、自慢の直火焼きのグリルで、丸ごと焼きあげた。昆布の旨味とヨード感をまとわせ、さらには下に発酵した舞茸と平茸のペーストを敷き詰めたことで、旨味を後押しする構成だ。

これらの料理を味わった鶴岡の料理人たちは。

工藤シェフ「温海カブは若干のえぐみ、苦味があるので、甘味と酸味を加えて甘酢漬けで食べるのが一般的。子供の頃からその調理法ばかりを見てきたので、ローストするという発想がなかった。自分が働いているのは、結婚式場なので、どうしても万人受けするように、クセをとりバランスを良くする『守りの料理』になってしまいがちだった。コースの中で、上手に個性を際立たせる料理を、やってみたいと思うようになった」

木村シェフ「新しい料理のアイデアというのは、一人で考えて出てくるものはあまりない。新しく見えるものも、全く新しいものではなく、過去に作られた料理の上に築き上げられたもの。料理人同士で同じものを食べ、意見交換をすることで、伝統を未来につなぐ、温故知新のアイデアが出てくると思う」

宮崎シェフ「中国料理を作っているが、中国料理は油を多く使うので、素材の味を十分に引き出し切れていないようと感じた。フレッシュ感を生かした新しい中国料理を作っていきたい」

伝統的な食材の保存法でもあり、そんな新しい味のバランスの一つのキーとなるのが発酵。

ホートンシェフがINUAで学んだこの発酵のテクニックには、鶴岡の料理人たちも興味津々。「2%の塩をまぶして真空パックにし、25度〜28度の室温で3日間置いておく。ちょうど良い酸味になったら良いので、毎日味をチェックして、もっと酸味が欲しい場合は1〜2日長めに発酵させても良い」とアドバイス。

さらに、カロリーが低く旨味が多いとして世界で広く使われるようになった「出汁」だが、鰹節のカツオの代わりに肉を使った「節」も、ガストロノミーの世界では近年多く使われている。ホートンシェフは鰹節の手法を鶏肉に応用し、信州の銘柄鶏、「真田丸」を使った「鳥節」を作り、蕎麦の実で作った団子とローストしたごぼうと葛で作った汁の上から削りかけた「在来」と名付けた料理を披露。鶴岡の料理人たちに尋ねられ、鶏節の作り方も、「鶏肉に塩をして冷蔵庫で3日置き、スモークしてから、冷蔵庫で水分を飛ばし、最終的にはディハイドレーターで鰹節のように硬くなるまで乾燥、余分な水分を取り除く」などと、具体的に紹介した。

また、この会には、料理マスターズシルバー賞も受賞している、長野県内の蕎麦店「職人館」の北沢正和さんも参加。

「『おもてなし』とは『表なければ裏もなし』と読み解ける。表裏なく、目に見えないところにどれだけ気をつかえるかが大切。料理においても、目に見えない気遣いをするといい仕事になるものだ」と語った。

今回、鶴岡と信州の初めての交流となったが、鶴岡市としては創造文化都市の名にふさわしいローカルガストロノミーの発展のため、さらなる対話を考えているという。魅力ある地方作りのためにも、料理人同士が意見を交換し合い、多様で個性あふれる「おもてなし」をしてゆくことが、これからの日本ガストロノミー全体の豊かさにもつながっていきそうだ。

text・photo:仲山今日子

ワールド・レストラン・アワーズ審査員。元テレビ山梨、テレビ神奈川ニュースキャスター。シンガポール在住時、国営ラジオ局でDJとして勤務。世界約50ヶ国を訪ね、取材した飲食店や食文化について日本・シンガポール・イタリアなどの新聞・雑誌に執筆中。


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