ふた皿目は、秋を意識して考えたガストロノミーの究極。トリュフをフォワグラとともに。「フォワグラがフランス料理の王様なら、トリュフは女王。そのふたつで、秋を満喫してほしい」と杉本さん。
しかし一見、この皿のどこにフォワグラがあるのか。すると、杉本さんはおもむろに真ん中の真っ黒なトリュフにナイフを入れた。なんと、なかにはフォワグラのムースが入っている。じつはこれ、〝フェイク・トリュフ〞だったのだ。
食用に使えるシリコンで、トリュフの型をとり、トランペットのムースのなかにフォワグラのムースを閉じ込めて型にはめ、まるで本物のトリュフのような外見をつくる。
皿のテーマは秋。落葉をイメージさせるように、フォワグラのテリーヌを薄くそぎ切りにする。ランダムな形が、秋の森の足元に散らばる落葉や枯れた植物を連想させる。
こちらも落葉をイメージした赤ワインのチュイル(焼き菓子)。プレートに赤ワインの入ったチュイル生地を薄く流し、オーブンで焼く。あえて形を整えないでちぎるように切る。
「『ル・ムーリス』でヤニック・アレノさんの下にいたとき、アレノさんがフォワグラの砂糖釜焼きをつくった」
じっくり火を入れていくと、フォワグラのコンフィができ上がった。「こんな方法があるのかと驚き、目を見張りました」
シンプルにソテーしたり、ローストするだけでも十分においしいのに、こんな領域にまでチャレンジするのかと、一流シェフの発想力に舌を巻いたのだ。そんな体験があったから、今回の料理を発想したのだという。
今回は、フォワグラの脂はあえて取り除いた。しかし、それを使ってもっと料理の味わいを深め発展させることもできるかもしれない、と杉本さんは言う。「やったこと」で満足せず、常に次のステップを考える。ひとつのチャレンジが、新しい発想を次々に生んでいく。若き料理長はどん欲だった。
1980年、千葉県生まれ。1999年に帝国ホテルに入社し、2004年に退社して渡仏。ブルターニュのビストロを皮切りにさまざまな経験を積み、06年に「ル・ムーリス」へ。同ホテルのメインダイニング(三ツ星)では責任者の役割を担った。帰国し17年4月に帝国ホテルに再入社。19年に帝国ホテルの東京料理長に就任。
Imperial Hotel Tokyo
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山内章子=取材、文 依田佳子=撮影
本記事は雑誌料理王国301号(2019年9月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は301号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。