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料理人の独創性が光る。唯一無二の店!Part6 ラ シーム 高田祐介さん


昨日作った料理は、過去のレシピ今、自分が感じる料理を作り続けたい

「極論ですが、レシピなんていらないんですよ。その時、その瞬間いいと思うものを作り続けていく、それが僕の理想かもしれません」

 そう話す、「ラシーム」オーナーシェフの高田裕介さん。パリ「タイユヴァン」や「ミーティング」「ル・ムーリス」での修業を経て、2010年大阪・本町にオープンした「ラシーム」は「ミシュランガイド京都・大阪2017」で2年連続二ツ星を獲得。高田さんがフランス料理界で注目を集める理由は、古典料理を昇華させた先にある、作り手のアイデンティティが際立った料理を創造することにある。

「これからの時代は、シェフの個性が感じられる料理が求められるようになると思います。ただ、今はすぐに情報が共有できてしまう時代になり、どこまでが『僕の料理』と言えるのかは疑問が残りますが」

伝統料理のアレンジャーと創造者であることの違いとは

 いつ、どんなときにも頭のどこかで料理のことを考えているという高田さん。素材やテーマ、盛り付け方などのヒントは暮らしの中にもあると話す。「基本的にほかのお店に食べに行くことはないですね。ほかの方の料理を食べてしまうと、それが印象に残ってしまい、自分の料理で似たことをしてしまう。料理におけるヒントは、自分自身をどんどん掘り下げてその中から出てくるもの。それが『僕の料理』と言える条件ではないかと思います」

 つねに新しいものを考え創造するという作業の連続は、自分自身を消耗してしまうのではないか。
「確かに流行りのもの、誰かの模倣を追いかけ続けると、消耗してしまうかもしれませんね。僕の場合は何もないフラットなところから生まれることが多いです。記憶にある点と点がインスピレーションという線でつながっていく感じで、自分の中でイメージがいくつも膨らんでいくので、消耗するといった感覚はないです」

 古典料理と言われるこれまでの手法や作品から生まれたアレンジではなく、料理を作ることの発想自体から再構築する料理哲学。時代の流行りや模倣の延長線上にあるものとは別次元の、あえて表すなら「僕の料理」というジャンルなのだ。

自分の料理やスタイルはゲストに知ってもらわなければ表現できない

 昨年、「ラシーム」は店を全面改装。34席あった座席を20席までに減らし、ゆったりとした空間を創出。それまで、半個室だったスペースは完全個室に。外観も大きく改装し、よりモダンでクラシックな印象になった。

「オープン当初、フランス料理店には、料理を食べる空間やシチュエーションが求められ始めていた。料理に力を入れながらも空間はラフ。フランス料理を緊張せずに食べてもらえる店にしかった」と高田さん。当初、ダイニングには大きな長テーブルを配し、各テーブルにクロスは敷かない、レストランでもビストロでもない独自の空間に設えた。

「『クロスがないなんて』と、言われることもありました。よいと思うこと、おもしろいことをすれば評価されると考えていました、でも、それはニューヨークや東京といった大都市の場合。肩肘を張らない空間が、お客さんにとって望む空間とは限らない。ハレの日にふさわしい設えとシチュエーションが求められる感覚もまた、大切にしなければならない」
 オーソドックスなフレンチが主座を占める大阪で、お客さんが安心して食べられること、そこから始まるコミュニケーションを、今は一番大切にしているという。

ふきのとうと豚足のタルトレット
高田さんの出身地である奄美大島の豚足を使った料理。幼い頃から慣れ親しんだという豚足のコクと旨味を反映。まさに高田さんのアイデンティティが散りばめられたひと品。
タルト生地に使っているのは強力粉とそば粉を混ぜ合わせ、塩、卵、ラードを加えたもの。サクサクとした食感が印象的。フランス料理ならではのコクのある料理でありながら、日本の風土に馴染み深い素朴な味わいが表現されている。

料理には作り手と食べる人とのコミュニケーションが必要不可欠

古典と先端を知ることで表現することができる閃き

 新生「ラシーム」として大きな変革を行い、高田さんが本来伝えたかった「僕の料理」を楽しみに足繁く通う常連客も増えた。
「やりたいことができるのはこれから。お客さんもいろんな情報を持っています。だからこそ創造的な料理を提案するには、受け継がれてきた古典的技術と最先端の技術、そして日本をもっと理解する必要がある」

 そう語る高田さんは、かつて駆け出しのころ、大枚をはたいて購入した約500品のレシピが紹介された「Grand Livre de Cuisine d、Alain Ducasse」や、ジョエル・ロブション氏の料理レシピ6巻セットをすべて習得。今では「ラスール料理辞典」と最新技法が紹介された「MODERNIST CUISINE」に目を通し、現地の最新情報にも精通している。

「海外で今何が起きているのか情報収集はしますが、学ぶことは日本にもたくさんあります。以前、コラボしたあるシェフの『もっとお客様に楽しんでいただきたい』というとても奥の深い思いに触れ、強い刺激を受けました。お客様に何を求められていて、どう答えていくのか。正しい情報をきちんと伝えることも含めて、大切なことだと思います」

 高田さんのゲストとのコミュニケーションは、単に料理を作り食べてもらうという関係ではなく、日本におけるフランス料理の楽しみ方を伝える文化継承の域にある。その根本的な考えは店の名前にも由来し、フランス語で「山の頂」を意味する「La Cime」には、ゲスト、料理、空間という3つの頂点がつながり、最小の多角形を成して互いに支え合うことで、つねにこの瞬間にしかない料理を作り続けたいという思いが込められている。

若い人たちには、「どうして?」を考える環境と機会を与えたい

 そんな高田さんの考えは「ラシーム」で働く若い料理人たちにも受け継がれつつある。「テクニックとしての基本技術はもちろん順序立てて教育しますが、たとえばあるハプニングに対し『どうしたらいいですか?』の質問には基本、答えません。必ず『自分はこうしたほうがいいと思う』という提案に対して、それでOKか、もっとよい方法がないかは判断します。

イカのメレンゲ
見た目、味、食感、後味が楽しめるひと品はどこか懐かしさを感じさせる新しい味。「イカの干物は旨味が凝縮されているから、おつまみ感覚でお酒にもぴったり」と高田さん。
イカとメレンゲの器に、とろりとした独特の食感のユリ根を使ったソースを敷き詰める。イカの魚醤とカツオだしでといた卵黄を中央にセット。まるで卵のような層と色味は高田さんの遊び心。

伝統料理という歴史から抜け出るのは結局は個人の表現なのかもしれない

“料理を創る人”を目指すのであれば、まず自分の頭で考えられる力が必要。
そうでなければ、ただ単に決まったレシピをルーティンのように形にする“作業する人”になってしまうから」。そう語る高田さん自身も、スタッフの会話に必ず「なぜ、そうするのか」の理由を加えて、物事に対する論と説がつねにあること、それを考えることの大切さを伝えている。

「チームとして健全にまわらなければ、イメージした料理を最高のタイミングで出すことはできません。作りながら『やっぱりこうしよう』と変えてしまうことも多いので、スタッフは大変だと思うのですが、どうしてそうするのか、だったら自分はどうするのか考え動けることが、学びと成長につながると信じています」「同じ思考のベースを持った人たちが、自分の表現を磨き、洗練された料理が誕生する。すごくワクワクしますね。今よりもっと楽しく食事ができる文化が広まればいいなと思います」

「伝統を模倣」する時代から抜き出た「個人を表現」する時代への変革。今、日本のフランス料理界は何度目かの黄金期を迎えているのかもしれない。

私の道標
ヤニック・アレノ
パリ「ルドワイヤン」シェフ。かつて高田さんが修業の場として身を置いた「ル・ムーリス」の料理長。2007年にミシュラン三ツ星を獲得したのち、7年間その名誉を保持。表現者であり経営者でもある。

Yusuke Takada
1970年、鹿児島県奄美大島生まれ。辻調理師専門学校を卒業後、大阪「カランドリエ」などフレンチ、イタリアン数軒で経験を積む。2007年、渡仏。「タイユヴァン」「ミーティング」「ル・ムーリス」を経験し、2009年に帰国。2010年3月、大阪・本町に「ラ シーム(La Cime)」をオープン。それからわずか1年半で「ミシュランガイド京都・大阪」で一ツ星を獲得。2017では2年連続二ツ星に輝く。

ラ シーム
La Cime

大阪市中央区瓦町3-2-15 瓦町ウサミビル 1F
06-6222-2010
● 12:00~15:30(13:00LO)18:30~23:00(20:00LO)
● 日休(日曜日以外に月1日、年末年始、夏季休あり)
● 26席


白石亜矢子=取材、文 今清水隆宏、小笠原圭彦=撮影

本記事は雑誌料理王国第272号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第272号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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