「今行きたい、フレンチビストロ10名店」『ラ・シーム』


5年連続でミシュランガイドの二つ星を獲得、〝唯一無二〞のガストロノミーと称され、海外からも多くのゲストを迎え、同業者からも関心を集める「ラ シーム」。奄美大島出身の高田裕介シェフが食材から受けたインスピレーションを大切に生み出す独自性の高い料理はフランス料理の古典を深めつつ、現在進行形で変化し続けている。

フランス料理がレストランとビストロの二極化傾向にあった2010年、ラフな空間で本格的な料理を提供する店は〝異端の存在〞だった。作りたい店とゲストのニーズの懸隔に試行錯誤を重ね、2016年に全面改装。現在のスタイルになって5年が経過した。 昼・夜のコースに共通する定番のアミューズは「ブーダンドッグ」。ひとくち大のブーダンノワールに竹炭入りの衣をつけて揚げ、冷めないように熱々の石の上に盛りつけることで脂臭さを軽減する。

ちなみに、石は高田裕介シェフの出身地・鹿児島の火山岩。そこにはシェフのアイデンティティが込められている。「僕にとっては修業時代に学んだシャルキュトリー、ブーダンノワールはフランスを体現するもの。フランスを忘れないように、シグネチャーとして作り続けていきたいと思っています」。 

サクラマスとウド

「これは何?」とゲストに考えさせること、五感を刺激することによって料理への期待感を高める。この料理にはサクラマスは使われていないという意外性。それではコースのどこにサクラマスが出てくるのか?と興味をそそる仕掛けでもある。梅とビーツの酸味を合わせることでウドのすっきりとした個性がシンプルに伝わる一皿。

これは何?と好奇心をそそるビジュアルは、最旬のひと皿も同じ。サクラマスの頭から覗くのはボイルしたウド。梅とビーツのディップを付けていただくと酸味爽やか。極めてシンプルでいて、深く記憶に刻まれる。食材から得たインスピレーションで生み出す料理は、フランス料理の古典をふまえながら現在進行形で変化し、同業者からも多くの反響を呼んでいる。 店名に掲げたアルファベットは、あえて一部を欠けさせて〝未完成〞を表す。「完成したら終わり」という覚悟の強さを物語る。自身の中から湧き上がる探求心やほとばしる情熱を瞬間瞬間に皿の上に凝縮させていく高田シェフ。止まることなく変化し続ける「ラシーム」は今後も目が離せない存在である。

ARCHIVED COLUMN
「僕自身も未熟だったし、時期が3年早かったですね」


「ドレスコードは面倒だけど、本格的なフランス料理を食べたい。普段使いできるようなレストランがあれば……」という高田シェフ自身が望むレストランをイメージして、2010年にオープンした「ラ シーム」。テーブルにクロスのないカジュアルな空間、昼はフランスの一つの地方に特化したコース料理、夜はアラカルトのみの展開を満喫できるゲストは2010年当時の大阪にはまだ少なく、新スタイルの先駆者として試行錯誤を重ねていた。

text: Sawako Yamada photo: Katsuro Takashima


SNSでフォローする