本記事は、5月7日(木)発売の料理王国6・7月合併号緊急特集「コロナ時代の食の世界で新しい「ものさし」を探しに。」に掲載中の記事から、現在の状況を鑑みて特別に公開するものです。
「もはや時代は何を買うかではなく、どこから買うか?の勝負になっている」そう話すのは、代々木上原のレストラン「sio」のオーナーシェフで、昨年より複数店舗の経営も手掛ける鳥羽周作さんだ。鳥羽さんは、新型コロナウィルスの感染拡大で現在のような状況になる前から、いち早くウェブでの発信に力をいれてきた料理人のひとりだ。
店舗営業を自粛せざるを得ない状況になってからもその初動は早く、「#おうちでsio」というレシピの無料公開や、新たな宅配サービス「ミノトゥク」とも連動するテイクアウトメニューの提供、オンラインでの料理教室など、その勢いは留まるところを知らない。
「飲食業界も困っているんですが、その前にみんなが困っている状況です。いまある課題に対してじゃあ料理人である僕らは何ができるだろうと考えて行動している。ただそれだけですね」と鳥羽さんは言う。
noteというブログサービスを使ってのレシピの公開では、普段料理をしない人にもストレスを減らして楽しく家で過ごしてもらうため、コンビニの惣菜などを取り入れた時短で美味しいつくり方を積極的に発信している。真似しやすいよう材料を限定しすぎず、あえて余白を持たせた書き方を意識しているという。
またテイクアウトでは、sioの「イズム」を詰め込んだバインミーを考案し提供している。
「sioの料理のベースには、うまみ、塩味、甘味、酸味、苦味の五味+香辛料という考え方があります。それをバインミーという究極にミニマムな形で実現することに成功しました」。
鳥羽さんが表現するsioの「イズム」は、店舗の場合、2万円のコースのテーブルにつける限られた人にしか届けることができない。それがいまや、レシピの共有や1000円のバインミーというかたちとなって店外へ飛び出し、今までよりはるかに多くの人々に届いている。「幸せの分母を増やす」ことをミッションに掲げるsio。この状況下で逆に与えられる「幸せの総量」は増えているのだ。
「少なくとも向こう1~1年半はレストランという場所に価値がなくなるのではないか」と鳥羽さんは指摘する。今後の見通しは不明瞭だが、レストランというリアルな場には、美味しい料理を提供するだけでない、体験としての価値がシビアに問われることだろう。
鳥羽さんがいち早くウェブでの発信に積極的だったのも、そうしたsioという場所にある文脈を多角的に伝える必要を感じてのことだった。個人のTwitterアカウントではすべてのコメントをチェックし、一人一人に返信している。「自分がやるべきことは、応援してくれるひとを応援することです」と言い切る鳥羽さん。それが未来へ確かな一歩となるはずだ。
とば・しゅうさく
sio株式会社代表取締役社長。 1978年、埼玉県生まれ。サッカー選手、小学校教員を経て、32歳で料理の世界へ。神楽坂「DIRITO」、青山「Florilege」で修業を積み、恵比寿「Aria di Tacubo」でスーシェフ、代々木上原「Gris」でシェフを務める。
2018年7月、オーナーシェフとして同地にレストラン「sio」をオープン。クリエイターと共創する店づくりや従来にない雇用形態などチャレンジを続け、「ミシュランガイド東京2020」で1ツ星を獲得する。2019年には姉妹店「o/sio」を丸の内に、「純洋食とスイーツ パーラー大箸」を渋谷にオープン。
Twitter @pirlo05050505
sio(シオ)
東京都渋谷区上原1-35-3
TEL 03-6804-7607
12:00~22:00
水休 予約制、ランチは土・日・祝のみ
http://sio-yoyogiuehara.com
現在は営業自粛中。
text 中森葉月
本記事は料理王国2020年6・7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2020年6・7月号当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。